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臨床心理士監修 認知行動療法

臨床心理士監修|認知行動療法の意味や内容その効果を徹底解説

うつ病の治療方法のひとつとして認知行動療法と呼ばれる精神療法があるのはご存知ですか。これはバランスの良いものごとの捉え方や考え方、問題や人への対処方法を学ぶことでストレスに強い心を育てていく治療法であり、うつ病の再発予防にも効果があると言われています。今回はこの認知行動療法について、どのような治療が行われるのか、また、どこに行けば受けることができるのか、保険は適用されるのかなどを解説いたします。

1.認知行動療法とは

認知行動療法とは?

認知行動療法とはバランスの良いものごとの受け止め方や考え方、問題への対処の仕方を学び、ストレスへの耐性を身に付けていく治療方法です。

うつ病になるとものごとの受け止め方がネガティブな方向へ偏りがちです。ネガティブな受け止め方や考えはネガティブな気持ちをより強くします。

そして、ネガティブな気持ちは私達の行動にも影響を与えます。
例えば、問題の解決を先のばしにしてしまったり、周りに助けを求められなかったりと行動が消極的になって、問題にうまく対応できなくなるのです。

問題にうまく対応できなければ、さらにネガティブな考えや気持ちになるという悪循環に陥ります。

例えば、メールを友達に送信したけど返信がこない場合、「自分は嫌われている」と思い込み、人に相談することもできずに自分の殻に閉じこもって孤独になり、さらにストレスを感じる……そんな経験はありませんか。

認知行動療法では問題にぶつかったときのものごとの受け止め方や問題への対処方法を学ぶことで、困難を乗り越える力を育て、うつ病から抜け出すことを目指します。

次の章から認知行動療法で行われる具体的な治療方法をみていきましょう。

2.認知行動療法の具体的な内容

自分の自動思考を知る

認知行動療法を進める上では、まず自動思考について知ることが必要です。

厚生労働省『うつ病の認知療法・認知行動療法マニュアル』では、
自動思考とは“様々な状況でその時々に自動的に沸き起こってくる思考やイメージ”と説明されています。

友達を食事に誘ったけれど忙しいから断られた場合を考えてみてください。
断られたとき、皆さんはどのように感じますか。
「忙しいなら仕方がない」とか「もしかして嫌われている」といった考えが頭をよぎるでしょうか。

このように何か事実が起こったときに、頭をよぎる考え方、ものごとの受け止め方が自動思考と呼ばれるものです。

うつ病の場合、このものごとの受け止め方がネガティブな方向に偏る傾向があります。

自分の自動思考を知る

自分の思考を理解し、修正する

事実と受け止め方に大きなずれがあると、ストレスの原因になります。

先ほど例にあげた、友達を食事に誘ったけれど忙しいからと断られた場合を考えてみてください。

友達は本当に忙しいから食事を断っただけなのに、「忙しいから仕方がない」と受け止めるのと、「私は嫌われているから断られてしまったんだ」と受け止めるのでは、受けるストレスの強さが違うのではないでしょうか。

うつ病のとき、人には陥りやすい負の思考のパターンがあるといわれています。

例えば、マイナス思考でものごとを悲観的にとらえすぎる、アクシデントが起きると全て自分の責任のように感じる、少しの失敗も許されないように思い込んでしまう、などです。

自分がどのような思考パターンに陥りやすい傾向にあるのかをまず把握することが重要です。
自分の陥りやすい思考パターンを把握できれば、視点を変えて考えるヒントになるからです。

厚生労働省では自分の思考パターンを知る方法としてコラム方式を推奨しています。
これは、つらい出来事があったときに、そのときの状況や気分、浮かんだ考えなどを整理する手法です。

これにより、事実と自分の受け止め方の違いを知ることができ、どのようにすれば受けるストレスが小さくなるのか考えるきっかけになります。

認知行動療法と問題解決能力について

現実の問題に対処できなければ、ものごとの受け止め方だけ変えてもストレスの原因になってしまいます。

何か問題が起こると「自分の責任だ」とネガティブな考えに押しつぶされそうになってしまうことはありませんか。

しかし、必要以上に自分を責めたり、悲観的になったりしていても問題を解決することはできません。

認知行動療法では問題解決への取り組み方についても学びます。具体的にどのようなことを学ぶのか、厚生労働省『患者さんのための資料』をもとにみてみましょう。

問題解決にあたっては、まずは、気持ちを落ち着かせ、「ゆっくり一個ずつ解決しよう。」「気軽にとり組もう。」「解決できなくても問題点がはっきりするだろう。」などと自分に言い聞かせ、問題に取り組む準備をします。

次に具体的に問題を特定しましょう。

そしてその問題に対して、解決策をできるだけ多く上げましょう。

そのうえで、解決策の中から良いものを選びます。

選んだ解決策に対して、具体的な実行計画を立て、実際に行動にうつします。

このような問題への取り組み方を学ぶことで、問題解決能力を身に付け、ストレスへの耐性を強くするのです。

もちろん、問題解決は最初からうまくいくわけではありません。

練習を重ねて問題解決力を向上させていくとともに、問題解決ができなかった場合の気分の紛らわし方などもあわせて身に付けていきましょう。

認知行動療法と対人関係について

「こんなことを言ったら相手を傷つけるかもしれない」、「相手に言い負かされないように自分の意見を主張しなくてはいけない」、「うまく伝えることができずに相手に不快な思いをさせてしまった」など、
必要以上に攻撃的な言い方をし過ぎて相手との人間関係がこじれたり、反対に相手のことを気遣い過ぎて自分の言いたいことが言えなかったり、人とのコミュニケーションが原因でストレスに感じることは少なくないでしょう。

このようなストレスに対応するために、認知行動療法ではアサーションといって、相手の気持ちを大切にしながら、自分の気持ちを伝える手法を学んでいきます。

アサーションも厚生労働省『患者さんのための資料』に取り組み方の一例が紹介されています。

1.もっと上手に自分の気持ちを伝えられたらよかったのに、と思った出来事を書き出してみる

2.攻撃的な(自分のことだけを思いやった)言い方を書き出してみる

3.受け身的な(相手のことだけを思いやった)言い方を書き出してみる

4.望ましい(相手のことも自分のことも思いやった)言い方を考える

5.まで出来たら、今度は4.で考えた文章を実際に声に出します。場面を思い浮かべながら声にだしてみましょう。どうですか。言いにくい部分がありませんか。そういう部分は言いやすい様に変えましょう。声に出してみてスムーズにいえる様になったら、数回繰り返しましょう。

出典:『患者さんのための資料』(厚生労働省)

このような練習を繰り返すことでアサーションスキルを身につけます。日常生活の様々な場面について練習をしたら実際の場面でもやってみましょう。

最初はうまく言えないことや、自分の気持ちを抑えられず言い過ぎてしまうこともありますが、繰り返し練習することで徐々にアサーションスキルが身についていきます。最初からうまくやろうとせず、焦らずにじっくりと取り組みましょう。

認知行動療法と対人関係について

3.認知行動療法の有効性について

認知行動療法の効果は?

実際に、認知行動療法は効果があるのでしょうか。

認知行動療法は、行動に焦点をあてた行動療法に、1970年代に米国の Aaron T Beck によって開発された認知療法が合わさった精神療法です。その効果について厚生労働省は『うつ病の認知療法・認知行動療法マニュアル』の中で以下のように述べています。

認知療法・認知行動療法は、うつ病はもちろんのこと、不安障害やストレス関連障害、パーソナリティ障害、摂食障害(神経性大食症)、統合失調症などの精神疾患に対する治療効果と再発予防効果を裏づける優秀なエビデンスが多く報告されてきたことから、欧米を中心に世界的に広く使用されるようになりました。また、精神疾患以外でも、日常のストレス対処、夫婦問題、司法や教育場面の問題、などその適用範囲は広がりを見せています。わが国では、とくに1980年代後半から注目されるようになってきました。それとともに、わが国での治療効果の検証も進み、厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」を初めとした研究でその効果のエビデンスが積み重ねられてきています。

出典:『うつ病の認知療法・認知行動療法マニュアル』(厚生労働省)

つまり、認知行動療法は国際的にもうつ病に効果があると実証されており、日本でも効果があると国が認めている手法なのです。

再発予防にも効果があるの?

認知行動療法は厚生労働省も『うつ病の認知療法・認知行動療法マニュアル』のなかで“精神疾患に対する治療効果と再発予防効果を裏づける優秀なエビデンスが多く報告されている”と認めている治療方法です。

また、うつ病がストレスを強く感じることによって引き起こされる病気であるということを考えると、認知行動療法によってストレスへの対処方法を学ぶことは、うつ病の再発予防につながることが分かります。

空と雲

4.認知行動療法をどこで受けられるの?

認知行動療法はどこで受けられるの?対象者や費用は?

認知行動療法や認知行動療法に基づくプログラムを受けてみたいと思われた方は、病院の精神科やメンタルクリニック、一部の障害者就労移行支援事業所などでを受けることができます。

すべての施設で認知行動療法を受けることができるわけでないので、事前に確認するとよいでしょう。

また、治療費はうつ病や社会不安障害、強迫性障害、パニック障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの精神疾患をもつ方であれば国民保険が適用され、3割負担となります。

ただし、医師が実施した場合など、条件がありますので、事前に医療機関に確認することをおすすめします。

認知行動療法を受ける上での注意点

認知行動療法はものごとの受け止め方のパターンを把握し、別の視点で考えることができるようになるための治療です。

現在は自分で認知行動療法に取り組めるようなワークブックが多く出版されています。

しかし、自分で自分自身の考え方を客観的に把握することは難しいものです。

また、体調が悪い状態でひとりで認知行動療法を試みると、うまく出来なかったり症状が悪化してしまう可能性があります。

自分で取り組んでうまく出来なかった場合や、すでに医療機関にかかっている場合は、専門家や主治医に相談してから取り組むようにしましょう。

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監修者

石上友梨 (臨床心理士)

大学・大学院と心理学を学び警視庁に入庁。
5万人の職員のメンタルヘルスを管理し、カウンセリングや心理検査、メンタルヘルス講義、拳銃選手のメンタルトレーニングなどを実施。
現在はフリーランスとして心理学に関するライター活動も含めて幅広く活動中。
Webサイト:https://cbt-yoga.com/

【参考文献・参考サイト】

https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/04.pdf
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/01.pdf
https://www.comhbo.net/?page_id=5586
(写真素材:PIXTA、photoAC)