今さら聞けない「精神障害者保健福祉手帳」
取得のメリット・デメリット、申請方法について
メンタルヘルスの不調が原因で休職し、精神科や心療内科に通院していると、「精神障害者保健福祉手帳」、いわゆる精神疾患のある方向けの障害者手帳についてのポスターや掲示物などを見かけることがあります。しかし、手帳を取得することの意味や申請方法など、詳しく知らないという方も少なくありません。
今回は、精神障害者福祉手帳とはどういうものか、取得することのメリットとデメリット、または申請方法についてご紹介します。これまで「なんとなく取得のハードルが高いと感じていた」という方も、ぜひご覧ください。
1.精神障害者福祉手帳とは
精神障害者保健福祉手帳は、一定程度の精神障害の状態にあることを認定する手帳で、自治体から交付されます。手帳を取得すると障害のある方の日常生活や社会生活を総合的に支援する「障害者総合支援法」の対象になるため、自治体や企業が独自に提供するサービスを受けられます。
精神障害者保健福祉手帳の対象者は、うつ病や双極性障害、適応障害などの精神障害のある方や発達障害のある方で初診から6ヶ月以上が経過している方が該当します。手帳は、障害の程度により1級から3級に分けられています。
2.手帳取得のメリット
手帳を取得することのメリットは、大きく分けて2つあります。
1つ目は、日常生活での支出を抑えられるという点です。住んでいる地域やサービスを提供する事業者によって異なりますが、例えば医療機関での受診や公共施設の利用料金、交通機関や駐車場・駐輪場の利用料金、映画館やテーマパークの入館料、携帯電話やインターネットの利用料金、NHKの受信料などで割引を受けられたり無料になったりする場合があります。また、税金や保育料が減額になるケースもあります。
例えば東京都の主な優遇措置や福祉サービスには、下記のようなものがあります。
・税制の優遇措置(所得税、住民税、相続税、贈与税、自動車税、利子等の非課税など)
・東京都精神障害者都営交通乗車証の交付(都電、都バス、都営地下鉄など)
・路線バスの運賃半額割引
・生活保護の障害者加算(1級・2級のみ)
・都営住宅の入居及び特別減額(特別減額は1級・2級のみ)及び使用継承制度
・都立公園・都立施設の入場料免除
・生活福祉資金貸付制度
日常的に利用しているサービスが割引対象になることが多いため、生活費・出費を抑えることができます。
2つ目のメリットは、障害者雇用枠の求人に応募できるという点です。障害者雇用促進法では、企業に対して一定数の障害者の雇用を義務付けています。そのため、求人の中には障害者手帳を取得している方のみを対象とした障害者雇用枠の求人があります。
障害者雇用枠で就職すると障害に理解ある職場で勤務ができたり、周囲に相談できる人が多かったりというメリットがあります。障害への理解や配慮がある職場で働きたいという方や自分ひとりでは安定した状態を維持することが困難だと考えている方は、障害者雇用枠で就職をした方が望ましいケースもあります。
障害者雇用枠への応募は、障害者手帳を持っている方に限定されています。障害者手帳を取得していることによって、一般雇用枠だけではなく障害者雇用枠まで範囲を広げて求人選択ができるというのがもう1つのメリットといえます。
3.手帳取得のデメリット
取得することによる大きなデメリットはありません。もっとも、自分の障害や病気を受容できていない方であれば、手帳を取得することで「自分は障害者なんだ」と精神的に落ち込んでしまうケースが考えられます。まだ自分の障害を受容できていないと感じる場合は、まずは自分の障害について理解し、しっかり受け入れた上で手続きを進めることが大切です。
4.メリット・デメリットのバランスを考える
上述したように、障害者手帳の取得は場合によってはある程度のデメリットが考えられるものの、それ以上に大きなメリットがあるといえます。「取得することで周囲に障害があることが知られてしまうのでは」と不安になる方もいるかもしれませんが、自ら開示しなければ取得したことが周囲に知られることはありません。また、不要になったときは返納することもできます。申請には手間がかかりますが、取得することによって経済的に負担が少なくなったり便利になることも多くあります。取得を迷っている場合は、自分の障害や病気と向き合い受け入れた上で手続きを進めるとよいでしょう。
5.手帳の申請方法
障害者手帳の申請は、居住している市区町村の障害福祉課や保健福祉課などの窓口で行います。 自治体によって異なりますが、申請の際は指定医による意見書や診断書、本人確認ができる書類や証明写真、印鑑などを用意します。基本的には本人による申請になりますが、ご家族や医療機関関係者等が代理で行うこともできます。
精神障害者保健福祉手帳は、申請を受けてから交付されるまで約3ヶ月程度かかるのが一般的です。障害者雇用枠での選考を希望している方や医療機関の負担軽減を希望している方は、早めに申請手続きを済ませておくとよいでしょう。
自治体によっては、自立支援医療(精神通院)と同時に申請手続きができます。自立支援医療制度は医療費の自己負担額を軽減する公費負担医療制度で、原則として自己負担額が1割となります。世帯の所得などに応じて自己負担上限月額が決まり、上限月額以上は自己負担がなくなります。市区町村の担当窓口は障害者手帳の申請窓口と同じであることが多いので、医療費の負担を軽減したい場合はこちらも申請するとよいでしょう。
まとめ
障害者手帳は、取得することで多くのメリットがあります。特に障害者雇用枠での就職を希望する場合は、障害者手帳が欠かせません。交付まで時間がかかることが多いので、取得を希望している場合は早めに申請手続きを済ませておく必要があります。
また、自立支援医療制度など他の制度と合わせて利用することで、経済的な負担をより軽くすることもできます。経済的な負担軽減に利用できる制度については「メンタル不調で働けないときに気になるお金や手当・保障休職中・離職中に利用できる助成や制度について」でもご紹介していますので、金銭的な不安を感じている方は併せてご覧ください。(専門スタッフとともに社会復帰や復職、就職を目指せるニューロリワークへの見学予約はコチラから)
【参考文献・参考サイト】
・精神障害者福祉手帳|治療や生活へのサポート|メンタルヘルス|厚生労働省『みんなのメンタルヘルス総合サイト』
・精神障がい者保健福祉手帳の交付と福祉サービス | 活用できる社会資源や制度 | すまいるナビゲーター | 大塚製薬
・障がい者や遺族年金受給者などの非課税貯蓄「マル優・特別マル優」 | B.貯蓄する | 一般社団法人 全国銀行協会
(写真素材:PIXTA、photoAC)
記事のリンクをコピー