不安を解消するための「注意訓練法」と、その実践方法
求職中や休職期間中は、ふと不安が頭をよぎってしまうことも多いかもしれません。漠然とした不安は意識せずとも現れてしまうものですが、そのような場合でも、工夫によって解消することが可能です。
ここでは、そんな不安やネガティブな感情の軽減に効果があるとされるエクササイズのひとつである「注意訓練法」をご紹介します。この訓練法は、「嫌な人だと思われるかもしれない」「バカだと思われたらどうしよう」といった強い自意識によって不安や緊張が強くなる方という方にも適したトレーニングです。実践方法と併せて覚えておくことで、日常生活の中で活用していくことが可能です。(メンタル不調時のケアを学びながら就労を目指す「ニューロリワーク」の資料請求はコチラから)
1.注意訓練法とは
日々の生活の中で、自分の注意がどのようなものに向いているかを意識することはあまり馴染みのないことかもしれません。
一般的に、「注意が向く」というのはある物事や人物のことが気になったり、関心を持ったりすることなどを指します。
たとえば、以下の状況などが当てはまります。
①車での運転中に赤信号で停止していると、歩道にリードをしていない犬が見えた。
②その犬が気になり、信号が青に変わったことに気が付かない。
このような場合、注意は「犬」に向いていることになります。青信号に気が付いて運転に集中すると、今後は注意が「運転」に切り替わります。
日常生活では、この例のようにあることに注意が向き、そして頻繁に注意の切り替えが行われています。注意訓練法は、この「注意の選択や切り替え」をトレーニングするエクササイズです。もともとは、メタ認知療法というセラピーで行われていました。
ではなぜ、このようなエクササイズが効果的なのでしょうか。
これは、不安なときや落ち込んでいるときなど、ネガティブな感情を抱いているときを想像してみると分かりやすいかもしれません。ネガティブな感情を抱いているときは、料理をしていても集中できなかったり、テレビを見ていても内容が入ってこなかったりと、注意がネガティブな感情からなかなか切り替わらないことがあります。
ネガティブな感情は強く注意を引くため、なかなか抜け出せないことが多いものです。そこで注意訓練法では、「自分の注意」を「選ぶ(選択的注意)」「切り替える(注意の転換・切り替え)」「分散させる(注意の分割)」といったトレーニングを行うことで、自分の注意をコントロールしやすくします。
注意訓練法によって自意識以外のものに注意を向けるようになると、自分の欠点を無理に何とかしようとせず、ポジティブに開き直って行動できるようになり、結果的に不安や緊張を回避して対応が可能になります。
2.注意訓練法と不安感
注意訓練法と不安感について調査した研究があります。
ある研究では、不安感が強い大学生133名を対象に以下の流れで行われました。
対象者を
①注意訓練法を行うグループ
②マインドフルネスを行うグループ
③気晴らしを行うグループ
の3つに分けて、不安感や「自己注目」がどのように変化しうるかの調査を行いました。
自己注目とは、自分の内的状況に注意が向いている状態、つまりは自分で自分を注目の的にしている状態を指します。上述した自意識と似た考え方です。自己注目は適度であれば問題ありませんが、不安障害の方は自己注目が過度に高くなっていることが報告されています。こうした理由から、注意の自己コントロールを促す注意訓練法によって、自己注目がどう変化しうるかについて調査が行われています。
調査の結果、注意訓練法によって自己注目が低下することが分かりました。また、不安感はいずれの介入でも軽減されましたが、注意訓練法の不安感軽減の効果はもともと自己注目が高い方に対してより高いことが示されました。
つまり、「嫌な人だと思われるかもしれない」「バカだと思われたらどうしよう」といった強い自意識により不安や緊張が高まってしまう場合は、注意訓練法によって自分への強い意識を解放できる可能性が示唆されています。
別の研究 では、パニック障害の方と社会不安障害の方に注意訓練法を行ったところ、パニック発作の頻度と不安感が軽減することが示されています。
こうした実験・調査結果から、注意訓練には過度な自己注目や不安感の軽減に効果があることが分かっています。(メンタル不調時のケアを学びながら就労を目指す「ニューロリワーク」の見学申し込みはコチラから)
3.注意訓練法の実践方法
注意訓練法の実践方法は、以下の3段階に分かれます。
①選ぶ(選択的注意)
②切り替える(注意の転換・切り替え)
③分散させる(注意の分割)
実践では、周囲の音を活用して行うのが一般的です。たとえば、公園で「風が吹く音」「鳥のさえずり」「子どもの遊ぶ声」「近くを通る車の音」「工事の音」などが活用できます。
まずは「①選ぶ(選択的注意)」を行い、複数の音の中からひとつの音に注意を向けます。これは、音を用いたマインドフルネス瞑想に似ています。(関連記事:『メンタル不調による離職者や休職者が押さえるべき、 就労や復職の不安を解消するための「マインドフルネス」』)
次は「②切り替える(注意の転換・切り替え) 」です。先ほどの音とは別のひとつの音に注意を向けます。①で鳥のさえずりに注意を向けた場合は、②では近くを通る車の音に注意を向ける、というように進めていきます。
そして最後は「③分割(注意の分割)」です。ここではひとつひとつ聞くのではなく、すべての音を同時に聞くようにします。少し難易度が高くなりますが、その場を空間全体で捉えると実践しやすいかもしれません。
以上が、注意訓練法の実践方法です。
公園や町のベンチなどは音が多いので、自宅と比べると実践しやすい環境といえます。自宅であればエアコンや水を流す音などを用いてトレーニングすることも可能ですので、興味のある方はぜひ試してみましょう。
4.注意訓練法を活用して、不安のない毎日を過ごす
ふとした不安を解消するために活用できる注意訓練法。「自分の注意」を選ぶ(選択的注意)、切り替える(注意の転換・切り替え)、分散させる(注意の分割)といったトレーニングを行うことで、自分の注意をコントロールしやすくなります。この方法は、様々な研究を通じて不安感の軽減や自己注目の軽減に効果があることが示唆されています。 ぜひ日常生活に取り入れて、不安のない毎日を過ごせるようにしましょう。(「ニューロリワーク」の見学をご希望の方はコチラから)
【参考文献・参考サイト】
・坂本 真士, 自己注目と抑うつ, 心理学評論, 1998, 41 巻, 3 号, p. 283-302, 公開日 2019/04/23, Online ISSN 2433-4650, Print ISSN 0386-1058, https://doi.org/10.24602/sjpr.41.3_283, https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/41/3/41_283/_article/-char/ja
●Fergus, T. A., & Wheless, N. E. (2018). The attention training technique causally reduces self-focus following worry provocation and reduces cognitive anxiety among self-focused individuals. Journal of behavior therapy and experimental psychiatry, 61, 66–71. https://doi.org/10.1016/j.jbtep.2018….
●Papageorgiou, C., & Wells, A. (1998). Effects of attention training on hypochondriasis: a brief case series. Psychological medicine, 28(1), 193–200. https://doi.org/10.1017/s003329179700…
(写真素材:PIXTA・photoAC)
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