うつ病に適した仕事とは|理想的な仕事内容や労働環境のまとめ
人間関係、業務内容、業務量……様々な理由から、うつ病で休職したあと、元の職場には戻らずに転職という道を選択する人もいます。
今回は、そもそもうつ病とはどんな病気なのか、何故うつ病になってしまうのかを理解し、うつ病の方に向いている仕事内容や労働環境についてご紹介したいと思います。
1.うつ病とは
うつ病とは
人生のなかにはひどく気分が落ち込んだり、ふさぎこんだ気持ちになったりすることもあります。
しかし、たいていの場合は少し時間がたてば立ち直ることができるでしょう。一方で、このような状態が長く続くことがあります。これはうつ病の症状の1つと考えられています。
うつ病は脳と関わりの深い病気です。うつ病になると、脳内の情報を伝える神経伝達物質が正常に機能しなくなってしまいます。
これにより、セロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質のバランスが崩れ、強い不安感や悲観的な気持ちなどに支配されることになります。
うつ病はこのように気持ちがふさぎ込んだり、食欲不振や睡眠障害、最悪の場合は、自殺にもつながりかねない危険な病気です。
また、うつ病は気持ちだけではなく、身体や思考力といった面にも影響を及ぼすことが少なくありません。
例えば、思考力といった面では「気が散ってしまい集中ができない」、「いつもなら簡単なことも決断力が衰えていて判断できない」、「視野が狭くなっていたり、過度に悲観的になっていたりするため今までと同じような判断ができない」といった症状に悩まされることもあります。
また、身体面では肩こりや頭痛、めまい、関節の痛みなどが起こることもあるでしょう。
現在、うつ病が発生する原因はまだ明確にはわかっていません。
ただし、うつ病になるきっかけとして一番多いのはストレスであると言われています。次の章では、仕事を通してうつ病になってしまったケースを具体的に見ていきたいと思います。
仕事が原因でうつ病を発症するケースとは
短い時間で高い成果を求められる現代のビジネスパーソンは仕事で強いストレスにさらされています。
そして、この強いストレスはときにうつ病の引き金になります。ここでは、仕事を通してうつ病になってしまうケースについてみていきましょう。
・パワハラやセクハラ被害
人間関係が上手くいかず、ストレスを感じている人も少なくはないでしょう。
特に、上司からのパワハラやセクハラといったハラスメントの被害を受けている場合、さらに強くストレスを感じているでしょう。このようなパワハラやセクハラを受けた結果、うつ病を発症してしまうこともあります。
・業務へのストレス
業務量の多さ、責任の重さが引き金になり、うつ病を発症してしまうこともあります。
例えば、昇進という喜ばしい出来事についても、昇進したことにより業務量や責任が重くなり、部下の管理など慣れない仕事も加わった結果として、うつ病になってしまうこともあります。数値目標やノルマ、締め切りなどに対するストレスもうつ病の原因となることがあります。
・長時間労働
長時間労働や長時間労働からもたらされる睡眠不足はうつ病の発症リスクを高める要因です。
実際に長時間労働のすえ、社員が自殺という痛ましい事件がニュースメディアで報道されるのを見たことがある人も多いのではないでしょうか。
ここで紹介した以外にも、リストラ施策の実行、不本意な配置転換、上司とのトラブルなど職場での望まない環境変化はうつ病の原因となり得ます。
また、望まない環境変化だけではなく、昇進、栄転、転職、就職といった本来であれば良い出来事も含めて、環境変化はうつ病の引き金となることがあります。
今まで慣れ親しんでいた場所から離れるというのは、自分で考えているよりもストレスになってしまっていることがあるのです。
このような大きな環境変化はなくとも、日常のストレスの積み重ねによりうつ病を発症してしまうことも少なくありません。
うつ病を予防するためには、日ごろからストレスと上手く付き合うことが重要といえるでしょう。
2.うつ病の方に適した仕事とは
適した仕事の特徴
もし、うつ病になって休職や退職をした場合、復帰後、どのような仕事に就けばうつ病を再発させず、働き続けることができるのでしょうか。
この章ではうつ病から復帰するのに適した仕事の特徴について考えてみたいと思います。
うつ病の場合、日々の業務内容や業務量が不透明で、急な対応が求められたりする仕事は向いていないことが多いと言われています。それでは、どのような仕事が向いているのでしょうか。
まず、作業手順がある程度決まっていると仕事に順応しやすいでしょう。
いつ、何をどうするのかが決まっており、マニュアル化されている仕事が対応しやすいという方が多いです。
環境や業務の突然の変化はうつ病の再発に影響を与える可能性があります。コツコツとした努力が評価される、業務内容に大きな変化のない、ルーティン化された仕事がよいでしょう。
さらに、業務内容だけではなく、人間関係も大きなストレスとなりやすいものです。コールセンターでのクレーム対応や接客業などコミュニケーションが中心の業務は合わないと感じている方も多いようです。
ただし、仕事内容の向き不向きは人それぞれ異なるケースがほとんどです。
上記も参考にしながら、自己分析をしっかり行い、自分に合った仕事を見つけることも大切です。
具体的に向いている職種とは
具体的にはどのような仕事が向いているのでしょうか。いくか具体例をご紹介したいと思います。
・事務職、事務系総合職
書類や伝票の作成といった定型的な作業が中心で、こつこつとした努力が評価される業務は取り組みやすいと感じる方が多いでしょう。
大きな責任が伴う仕事でも、自身が問題ないと感じる範囲であれば主治医と相談しつつチャレンジすることをおすすめします。
一方、同じ事務職でも、営業事務のように営業スタッフの補佐に入る仕事は、その方との相性も重要になるため、可能であれば就業前に職場実習を体験し様子をみてみましょう。また、繁忙期や閑散期の差が激しい事務職よりも、業務量がある程度一定である事務職がよいでしょう。
・倉庫業務
配送センターなどで商品の出荷準備、荷物の積み下ろし、在庫管理などを行う倉庫業務は突発的な対応も少なく、過度なコミュニケーションも必要ないことからおすすめの職種といえるでしょう。
ただし、配送センターは扱う商品の重さによっては体力が必要となるため、自身の体力に合わせて職場を選択する必要があります。
・清掃業
オフィスビルや商業施設、病院といった建物の清掃業務は清掃に関するスキルが必要となる一方で、過度にコミュニケーションをとる必要がありません。
そのため、清掃業を希望される方も多くいらっしゃいます。
・ライターやデザイナー等 在宅・リモートワークが可能な業務
近年ではライターやデザイナー、エンジニアなどの職種を中心に、在宅・リモートワークで取り組むフリーランスの方が増えています。
通勤による満員電車を避けられるのは、多くの方にとって働きやすい環境だと思います。
自分のペースで働くことができるのも、在宅・リモートワークの利点になります。
ここであげた業務はあくまで一例です。実際には自身の希望する業務内容や、労働環境なども踏まえて、仕事を探すとよいでしょう。
適した労働環境について
うつ病から復帰して働き続けるためには業務の内容だけではなく、労働環境が整っていることも重要なポイントになります。
第一に、勤務場所は通いやすい方がよいでしょう。長時間、満員電車を利用する必要があると、それだけで心身に負荷がかかるものです。
満員電車を利用する必要がある場合は乗車時間が短く、家から近い場所を選ぶなど通勤時のストレスが少ない企業を選ぶとよいでしょう。
次に勤務時間です。長時間勤務が必要となる職場は避けることをおすすめします。
十分な休憩が得られない長時間労働はうつ病を発症する原因の1つと考えられています。
長時間労働が常態化した職場を選択すると、うつ病が悪化する可能性が高まります。
また、生活リズムが乱れてしまうような深夜労働の多いシフト勤務も避けた方がよいでしょう。
うつ病は環境の変化が原因で再発する可能性が高い病気です。なるべく、生活のリズムを一定に保つことができる職場を選びましょう。
更に、リモートワークやフレックス勤務を採用しており、勤務時間に融通が利きやすい職場は体調に合わせた勤務が可能であるため理想的といえるでしょう。
転職先を選ぶときは、どのような労働環境が良いのか、自分の希望をまとめておくことをおすすめします。
3.障害があることは伝えるべきか|オープン就労とクローズ就労について
オープン就労・クローズ就労の違いとは
うつ病を発症したことついて就労先企業に伝える必要があるのか、障害を開示して就職したほうが良いのか、悩まれる方も多いでしょう。
自身に精神障害があるということを開示せずに就職することをクローズ就労といい、精神障害があることを開示して就職することをオープン就労といいます。
それでは、オープン就労とクローズ就労はどのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。次の章で具体的に考えていきましょう。
オープン就労のメリット・デメリット
オープン就労のメリットは自身の障害に対して、配慮してもらえるところにあります。
業務量や業務内容はもちろん、病院に通っている場合は通院に対する配慮もしてもらうことが期待できます。また、自身の障害を会社に理解してもらえているということは、働く人の安心感にもつながるでしょう。
もちろん、デメリットもあります。障害者枠で就職活動を行うと、障害者枠で就職しない場合に比べて、求人情報が少なくなります。
また、仕事の内容も補助的な内容が多かったり、給与も少なくなってしまったりというケースも少なくありません。
クローズ就労のメリット・デメリット
クローズ就労のメリットは障害者枠よりも求人の数や種類が豊富にあるということでしょう。
オープン就労とは異なり、業務内容が補助的な仕事が多いということもありません。また、給与についても障害者枠で仕事につくよりも高くなるケースが多いでしょう。
一方で、精神障害であるということを伝えていないため、通院や服薬、業務において障害を配慮してもらうことができません。
そのため、うつ病の症状がまだ強く残っている場合は、クローズ就労はおすすめできません。
また、障害があることを会社に告げていないため、「周囲に隠していることがバレてしまうのではないか」という不安感に悩まされるケースもあります。
オープン就労、クローズ就労ともにメリット、デメリットがあるため、自身の症状や希望する業務内容、待遇など総合的に考えて選択するとよいでしょう。
また、うつ病からの仕事復帰する場合の流れについては「臨床心理士・脳科学者監修|うつ病から仕事復帰するためのステップと注意点」の記事をご覧ください。
4.最後に
今回はうつ病の方に適した仕事や労働環境についてご紹介させていただきました。
ただし、ここでご紹介させて頂いた内容はあくまで一例であり、状況や希望によって向いている職種は変わってきます。
うつ病を発症した経緯、自分が得意なことや苦手なことなど、自己分析をしっかり行い就職先を見つけていくようにしましょう。
転職について悩まれている方は、障害者就労支援センターや転職エージェントなど専門機関に相談し、アドバイスをもらうとよいでしょう。
監修者
石上友梨 (臨床心理士)
大学・大学院と心理学を学び警視庁に入庁。
5万人の職員のメンタルヘルスを管理し、カウンセリングや心理検査、メンタルヘルス講義、拳銃選手のメンタルトレーニングなどを実施。
現在はフリーランスとして心理学に関するライター活動も含めて幅広く活動中。
Webサイト:https://cbt-yoga.com/
【参考文献・参考サイト】
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO20123670Y7A810C1TCC000/
http://www.utsu-rework.org/info/tool.html
書籍「やさしくわかる精神医学」([監修]上野国利)
書籍「精神障害者枠で働く」(著者:里中高志)
(写真素材:PIXTA、photoAC)
記事のリンクをコピー