双極性障害の方に向いている仕事は?働き方と適職探しのポイント
双極性障害(躁うつ病)は、気分の波によって体調や行動の調子が大きく変わりやすく、「仕事が続かない」「職場で迷惑をかけてしまうのでは」と悩む方が少なくありません。働く意欲があっても、躁状態・うつ状態それぞれで異なる課題が生じるため、適職の選び方や働き方の工夫が重要になります。
しかし、双極性障害があっても、自分の特性を理解し、無理のない環境やサポートを活用することで安定して働くことは十分可能です。本記事では、双極性障害が仕事に影響しやすいポイントと、仕事を続けるための対処法、職場選びのコツ、利用できる支援制度をわかりやすく解説します。自分に合った働き方を見つけるためのヒントとして参考になるかもしれません。
双極性障害(躁うつ病)とは?仕事にどう影響する?

双極性障害は、気分が異常に高揚する「躁状態」と気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返す精神疾患です。以前は「躁うつ病」とも呼ばれていました。この病気は気分の波が大きく、日常生活や仕事に影響を及ぼすことも考えられます。
双極性障害の特性を理解することで、仕事との向き合い方が見えてくるかもしれません。
躁状態・うつ状態のそれぞれの症状
双極性障害には、躁状態とうつ状態という異なる症状が現れます。
一般的に、躁状態では、睡眠時間が短くても元気に活動できたり、しゃべりすぎたりする傾向があります。様々なアイディアが次々と浮かんでくる一方で、気が散りやすく最後まで取り組めないケースもみられます。また、自信過剰になったり、買い物やギャンブルに多額のお金を使ってしまったり、怒りっぽくなったりすることもあります。
うつ状態では、憂うつで気分が重く感じられ、身体がだるく疲れやすくなります。疲れているのに眠れなかったり、食欲がなくなったりするケースも報告されています。何をしても楽しくなく、何に対しても興味がわかなくなり、表情が暗くなったり反応が遅くなったりします。
これらの症状は、本人の意思とは無関係に現れる患の特性とされています。
双極性障害I型とII型の主な違い
双極性障害には、症状の程度によってI型とII型があります。
主な特徴としては、以下の通りです。
| 種類 | 特徴 |
| 双極性障害I型 |
|
| 双極性障害II型 |
|
I型は激しい「躁状態」が特徴で、気持ちが高揚して何でもできる気がしたり、人の意見に耳を貸さなかったりします。入院が必要になる場合もあります。
II型は比較的穏やかな「軽躁状態」とうつ状態を繰り返します。軽躁状態の時は元気で活発になりますが、注意が散漫になったり自信過剰になったりすることがあります。うつ状態の期間が長い傾向があるため、うつ病と間違われやすい特徴があります。
なぜ双極性障害だと「仕事が続かない」と感じるのか

双極性障害は、躁状態とうつ状態を繰り返す精神疾患です。躁状態のときは気分が高揚し、様々なアイディアが浮かんで仕事の成果につながることもあるといわれますが、一変してうつ状態になると、すべてに対して無気力になり、会社にも行けない状態になる場合があります。
このような気分の波に影響されて仕事に支障が出やすく、「仕事が続かない」と悩む方も少なくありません。
躁状態が引き起こす業務上の課題
躁状態では、気持ちが高揚して色々なことができる気がするため、仕事を抱えすぎてしまう傾向があります。思いついたアイディアを次々と実行するものの、途中で続かなくなったり、計画性なく独断で進めたりすることもあります。
また、多弁になって仕事中でも人にしきりに話しかけたり、イライラしやすくなったりします。自分が偉くなった気持ちから周囲に尊大な態度を取ることで、上司や同僚との対人関係にトラブルが生じるケースもあります。
本人の自覚が難しいケースが多く、周囲とのズレが生じることも少なくありません。
うつ状態が引き起こす業務上の課題
うつ状態になると、すべてに対して関心がわかなくなり、無気力な状態になります。仕事に取りかかれず、集中力も低下するため、簡単な作業でもミスが増える可能性があります。
身体のだるさから朝起き上がれず、仕事に行けなくなることもあります。ひどい場合には活動性が大きく低下することもあり、遅刻や欠勤が増えて休みがちになる可能性があります。
また、話しかけられても反応できなかったり、無表情になったりすることで、周囲から「やる気がない」と誤解されがちです。人との関わりを避けてしまい、孤立しやすくなるケースもあります。
スケジュール管理やタスク遂行の困難
双極性障害のある方は、気分の波によって「できること」と「できないこと」の幅が大きく変わるため、スケジュールやタスクの管理が難しくなります。
躁状態では予定を詰め込みすぎて中途半端になったり、思いつきで新しいことに手を出したりする傾向もみられます。一方、うつ状態ではタスクを先延ばしにしたり、やらなければと思っても身体が動かなくなったりします。
躁状態のときに衝動的に始めた仕事が、うつ状態になると全く手につかなくなるなど、業務の遂行にムラが出やすい傾向が報告されています。こうしたパフォーマンスの波が周囲の混乱や信頼の低下につながり、「仕事が続かない」という悩みの一因となるのです。
双極性障害と付き合い仕事を続けるための対処法

双極性障害の症状をコントロールしながら働くには、症状に早く気付き対処していくことが必要です。安定して働くためには、自分の体調の波や対応方法を把握し、躁とうつのサインをつかんで対策することが大切になります。
ここでは、双極性障害と付き合いながら仕事を続けるための具体的な対処法を解説します。
継続的な治療と服薬
双極性障害の治療の基本は薬物療法であり、症状をコントロールするには定期的に医療機関を受診して継続的な服薬が不可欠です。症状が安定した「寛解期」であっても、自分の判断で服薬を中断することは避けましょう。
また、薬物療法に加えて、心理教育や認知行動療法(CBT)などのカウンセリングを含む心理社会的支援を併用することで、症状の理解が深まり、再発予防にもつながりやすくなります。
双極性障害とうつ病では、効果のある薬も異なります。適切な治療につなげるためにも、「気分が高揚する」といった躁状態を疑う兆候がある場合は、必ず主治医に伝えるようにしてください。仕事の合間などに通院できる環境を確保することも大切です。
自身の気分の波を把握する工夫
安定就労のためには、自分自身の「躁」や「うつ」のサイン(予兆)を早期に把握し、悪化する前に対処することが重要です。
そのためには、睡眠時間、体調、使った金額、人との予定といった明確に把握しやすい項目を日々記録する「セルフモニタリング」が有効でしょう。記録を続けることで、体調が大きく上下するサインをつかめるようになります。
たとえば「3時間睡眠が3日続く」ことがサインであれば、「主治医に相談する」「有休を使う」といった対処法をあらかじめ決めておくとよいでしょう。サインと対策をセットで決めて、見えるところに貼り出しておくことをおすすめします。
規則正しい生活リズムの維持
双極性障害の悪化を防ぐには、規則正しい生活リズム(起床・就寝・食事)を保つことが大切です。起床や就寝の時間を一定にするなど、毎日のリズムを整えていくと気分の波も起こりづらくなってきます。
特に睡眠時間が短くなると躁状態を引き起こしやすいため、十分な睡眠時間と休息を取ることを意識しましょう。寝る前にアルコールやカフェインを控えることも、睡眠の質を上げることにつながります。
勤務形態によっては体内時計の乱れが症状に影響することがあります。夜勤や頻繁な残業、シフト制・交代勤務などが負担になる場合もあるため、主治医と相談しながら、可能な範囲で勤務時間を調整したり、負担の少ない働き方を検討することが望ましいといえます。
職場への開示と合理的配慮の相談
双極性障害の特性を職場に開示し、理解と配慮を得ながら働くことにはメリットが期待できます。気分の変化で困りごとがあっても、周囲が対応方法を知っていれば、お互いに安心感を持って働くことができます。
あらかじめ、躁とうつのサインや必要な配慮を伝えておくことで、体調が変化したときにサポートを得やすくなり、大きなトラブルを防げる可能性があります。
「合理的配慮」として企業に依頼できる配慮には、通院のための休暇取得、ラッシュを避けた時差出勤、業務量の調整、定期的な面談などがあります。サインと対応を明確に決めておくことで、スムーズに対応できるようになります。
双極性障害の方が活躍しやすい職場選びのポイント

双極性障害の方が安定して働くためには、自分の体調の波や対応方法を把握し、自分に合った職場に就職することが大切です。双極性障害だからという理由で就けない仕事があるわけではありませんが、様々な業種・職種の中で比較的働きやすいといわれている環境があります。診断名は同じでも、個人個人で特性や性格、得意不得意も異なるため、あくまで傾向として参考程度に留めておくことが大切です。
業務負荷やスケジュールが安定した環境
気分の波に影響されにくいよう、業務量やスケジュールが年間を通して安定している職場が望ましいといえます。繁忙期などがあり時期によって大きく業務量が異なると、家に帰る時間にもずれが大きくなり、生活リズムを整えるのが難しくなることも考えられます。
また、急な予定変更や業務の増減が少ない職場は、安心して働き続けやすい環境といえます。恒常的に残業や休日出勤が発生する環境は、生活リズムが乱れやすく、再発の引き金になる可能性があります。「急に呼び出されるかも」といった不安が少ない職場であれば、気持ちの面でも安定しやすくなることが期待できます。
柔軟な勤務形態や働き方の制度
体調の波に合わせて働き方を調整しやすい、柔軟な勤務制度が導入されているかを確認することが重要です。フレックスタイムや時差出勤、短時間勤務、リモートワークといった制度があると、心身の負担を軽減できます。
通勤ラッシュの電車でストレスを受けてしまう場合は、業務時間をずらして働ける職場や、在宅勤務で通勤自体をなくすことができる職場が挙げられます。特にリモートワーク(在宅勤務)は、通勤負担がなく、静かな環境で働けるメリットがあります。柔軟に働ける職場だと、自分がストレスを受ける場面を減らすことができます。
自分のペースで進めやすい業務内容
ノルマや対人折衝が中心の仕事よりも、自分のペースを保って進められる業務内容が比較的負担が少ない傾向にあります。接客などお客さん次第で業務の時間や量が変わることや、取引先の関係でその日になってみないと業務量がわからない場合は、心身に負担がかかってきます。
作業手順が決まっているルーティンワーク(事務補助、データ入力、軽作業、清掃など)は、見通しが立ちやすく精神的負担が少ない例として挙げられます。静かで落ち着いた環境で、一人で黙々と取り組める業務が望ましいといえます。大きな変化の少ない業務環境は、無理のない働き方につながりやすいのが特徴です。
障害への理解とサポート体制
障害特性を理解し、必要に応じて柔軟な対応(合理的配慮)がなされる職場かどうかは、働きやすさに直結します。通院や体調の波に合わせて勤務時間をずらせたり、業務量を調整してもらえたりする環境が重要です。
産業医や社内の相談窓口が整備されており、困ったときに定期的に相談できるサポート体制があるかどうかもポイントになります。月に1回の上司や人事との面談、産業医との定期的な面談などがあれば、小さな不安を早めに共有することが可能です。体調の波について定期的に共有できる機会があると、悪化を防ぎやすくなります。
障害者雇用枠という選択肢
障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)を取得し、「障害者雇用枠」で就職するという選択肢があります。障害者雇用枠は、障害への理解や配慮(通院、体調不良時の休憩、業務調整など)を前提とした採用であり、一般枠に比べて安定して働きやすいメリットがあります。
2024年4月から法定雇用率が引き上げられたことで、現在は民間企業では40人に1人の割合で障害のある方を雇用することになっており、職場によっては専門の担当者がいることや、合理的配慮を求めやすくなっています。親会社の支援を受けて運営される「特例子会社」など、障害のある方が働きやすい環境が特に整備された職場もあります。
仕事や就職活動で利用できる支援制度・相談機関

双極性障害の方が活用できる支援制度や相談機関があります。就職活動だけでなく働き続けるための支援、生活に関する支援など、サービスごとに特色があるため、自分に合ったものを選んでいくことが大切です。
「仕事をしたいけれど、自分に合う働き方がわからない」「働き始めても続けられるか不安」という悩みを抱える方は少なくありません。無理をせず、自分のペースで働くためには、専門の支援機関に相談することが重要です。
経済的負担を軽減する公的制度
継続的な通院医療費の自己負担が原則1割に軽減される「自立支援医療(精神通院医療)」制度があります。薬代・診察・デイケアなど、継続して治療を受ける必要がある方にとって、経済的な負担を大きく減らすことができます。
障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)を取得すると、障害者雇用枠での就職活動や、公共交通機関・税金の割引、福祉サービスの利用などが可能になります。手帳の等級は症状の程度に応じて決まります。税制上の優遇や障害者雇用枠での就職活動などは等級にかかわらず利用できますが、公共交通機関の割引などは事業者や自治体によって適用範囲が異なるため確認が必要です。
病気により生活や仕事が制限される場合に受給できる可能性がある「障害年金」もあり、生活費の補助や治療に専念する期間の経済的な支えとなります。
参考:
厚生労働省|自立支援医療(精神通院医療)の概要
厚生労働省|障害者手帳
日本年金機構|障害年金
就職活動をサポートする専門機関
ハローワークには、障害のある方専門の窓口(専門援助部門)が設置されています。全国544か所にあり、専門の相談員が体調や特性に配慮した働き方を一緒に考えてくれる場所です。
障害者雇用枠の求人紹介や職業相談、履歴書・職務経歴書の添削、面接練習、応募先の企業との連絡など、就職活動に関する様々なサポートが受けられます。
障害者雇用に特化した転職エージェントは、障害特性に合った職場探しをサポートしてくれるサービスです。希望や体調を丁寧にヒアリングした上での求人紹介、企業との条件交渉・配慮事項の伝達代行、入社後の継続的なフォローなどに活用できます。
職業リハビリテーションや生活支援を行う機関
地域障害者職業センターは、全国47都道府県にある専門的な職業リハビリテーションを提供する機関です。障害者職業カウンセラーによる職業評価や、実務スキルの訓練などの職業準備支援、職場復帰のためのリワーク支援、ジョブコーチによる職場適応援助などが受けられます。
障害者就業・生活支援センターは、令和7年時点で全国339センター設置されており、仕事面だけでなく、金銭管理や住居など、生活面も含めた一体的な支援を行っています。就職に関する訓練や講座の提供、職場実習のあっせん、就職後の定着支援など、働き続けるための支援も提供しています。
参考:
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構|地域障害者職業センター
厚生労働省|障害者就業・生活支援センターの概要
安定就労を目指す準備は、就労移行支援/自立訓練(生活訓練)事業所 ニューロリワークで
双極性障害の方が仕事を始めるタイミングは、体調や気分の波を客観的に判断する必要があり、主治医や支援機関との相談が重要です。特に躁状態のときに「働ける」と焦って判断すると、再発や早期離職につながるリスクがあるため、慎重な見極めが求められます。「就労移行支援事業所」や「自立訓練(生活訓練)事業所」は、障害のある方が一般企業へ就職・復職し、安定して働き続けるために必要な知識やスキルを身に付ける福祉サービスです。
「ニューロリワーク」は、双極性障害やうつ病、適応障害などの精神疾患のある方を対象とした就労移行支援事業所/自立訓練(生活訓練)事業所です。通所を通じて生活リズムを整え、ブレインフィットネスプログラムで体調管理を学び、やまた、職業スキルやビジネスマナーの修得をはじめ、就職活動から定着まで専門スタッフがサポートします。「調子の波があるから働くのが不安」という方は、お気軽にご相談ください。
監修者
藤本 志乃
公認心理師、臨床心理士
早稲田大学人間科学部健康福祉学科、同大学院人間科学研究科卒業後、荒川区教育センター、東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科にて心理士として勤務。
その後、日本赤十字社医療センター腎臓内科心理判定士を経て、2020年にオンラインで心サービスを提供するLe:self(リセルフ)を創業。
企業でのメンタルヘルス研修など予防的な心のケアに関する講演、コンテンツ作成などにも多く携わる。
著書にあふれる「しんどい」をうけとめる こころのティーカップの取り扱い方。
ホームページ:https://leself.jp/
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