不安障害の方に向いている仕事は?働き方の工夫や公的支援も解説
不安障害があると、「仕事が続かないのでは」「職場で迷惑をかけてしまうかも」と不安が重なり、働くこと自体が大きな負担に感じられることがあります。しかし、症状の特性を理解し、環境の選び方や働き方を工夫することで、安心して働ける職場を見つけることは十分に可能です。
本記事では、不安障害が仕事に影響しやすいポイント、向いている仕事の特徴、働きやすくするための対処法、公的支援制度までわかりやすく解説します。
不安障害とは?仕事にどのような影響が出るか

不安障害は、人前で何かをするときや特定の状況下で、心配や不安が過度になり、日常生活に影響が出る病気です。精神的な不安から心と身体にさまざまな不快な変化が起こり、学校や会社に行けなくなる場合もあります。不安障害には、パニック障害、社会不安障害、全般性不安障害など、いくつかの種類があり、それぞれ異なる症状が現れます。
これらの症状は、仕事におけるコミュニケーションや業務遂行にも影響を及ぼすことがあります。
パニック障害による仕事上の困難
パニック障害は、突然の激しい不安や恐怖に襲われ、動悸・息切れ・めまいといった身体症状が現れる発作が特徴です。この発作は予測できないタイミングで起こるため、「また発作が起きるのでは」という予期不安を感じやすくなります。
仕事では、特に通勤時の電車やバス、人混み、閉鎖された会議室などで発作が起こることへの恐怖から、通勤や特定の業務を避けるようになる場合があります。こうした症状が続くと、出勤そのものが困難になり、仕事を続けることに支障をきたす可能性があります。
社会不安障害(SAD)による仕事上の困難
社会不安障害(SAD)は、人前での注目や評価を受ける場面で強い不安や恐怖を感じる特性があります。仕事では以下のような場面で困難が生じやすくなります。
| 困難を感じる場面 | 具体的な症状・状況 |
| 会議・プレゼン | 人前で話すのが怖い、声や手が震える、頭が真っ白になる |
| 電話・接客 | 不特定多数とのやり取りが苦手、緊張でうまく話せない |
| 日常業務 | 人の視線が気になり集中できない、ミスを過剰に恐れる |
| その他 | 宴会や雑談が苦痛、急な予定変更に対応しづらい |
これらの困難は、業務のパフォーマンス低下を招き、「仕事が続かない」という悩みにつながる場合があります。
その他の不安障害による仕事上の困難
強迫性障害は、自分でも不合理だとわかっていても、特定の行為を繰り返さないと不安が収まらない特性があります。仕事では、メールの文面や戸締りなどを過度に確認する行為により、業務に時間がかかったり支障が出たりすることがあります。
全般性不安障害は、日常の様々なことに過剰な心配を感じる状態が6か月以上続くことが特徴です。仕事では、将来への不安や業務の細部まで常に心配し続けることで、集中力の低下、イライラ、疲労感、不眠などを併発しやすくなり、日常の業務遂行に影響を与える場合があります。
不安障害の方が働きやすくなるための工夫と対処法

不安障害の症状があっても、適切な対処法を実践することで、ストレスを軽減しながら長く働き続けることが期待できます。具体的な工夫としては、専門医による継続的な治療、生活習慣や食生活の改善、自分に合ったリラックス方法の習得などが挙げられます。また、職場に症状を開示して合理的配慮を求めたり、通勤や業務環境を調整したりすることも有効な対策です。
ここでは、不安障害の方が働きやすくなるための具体的な工夫と対処法について解説します。
専門医による継続的な治療
不安障害の改善には、精神科や心療内科などの専門医による継続的な治療が効果的です。医師やカウンセラーに不安を感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、専門的な知識を持つ医療者だからこそ、不安や緊張を和らげる適切な助言が得られます。
仕事と治療を両立する際には、勤務時間の調整や作業内容の変更など、職場への伝え方についても医師に相談することが可能です。カウンセリングを通じてコミュニケーションに慣れる効果も期待でき、仕事に対する姿勢にも良い影響を与える場合があります。
生活習慣・食生活の改善
ストレスや疲労をためこまないために、規則正しい生活習慣を整えることが重要です。具体的な改善例として以下が挙げられます。
- 毎日寝る時間を決め、睡眠時間を確保する
- 暴飲暴食を避け、栄養バランスを考えた食事をする
- 散歩やラジオ体操など、適度に身体を動かす
生活リズムの乱れは心身の調子を崩し、不安や恐怖に対する抵抗力を低下させてしまいます。こうした生活習慣を整えることで心身の状態が安定し、症状の軽快へ近づけることができるでしょう。
自身に合うリラックス方法の習得
不安障害の主な症状である心身の緊張を和らげるため、自分なりのリラックス方法を身につけることが大切です。具体的な方法として以下の例が挙げられます。
- 湯舟にゆっくり入浴する
- アロマを焚いたり、好きな音楽を聴く
- ストレッチをする
不安や発作が起こりそうなときに使える対処法(腹式呼吸、筋弛緩法など)を身につけておくと、不安の悪循環を防ぐ助けになることもあります。
職場への開示と合理的配慮の相談
症状について上司や同僚、産業医などに打ち明け、理解を得ることも有効な対策です。2024年4月から改正障害者差別解消法により、障害者であると申し出た人を対象に、企業による合理的配慮の提供が義務化されました。これは、企業に負担が重すぎない範囲で、障害のある方が働きやすいよう配慮を行うものです。
手帳の有無にかかわらず合理的配慮の相談は可能であり、また、職場への開示は義務ではありません。どの範囲を、どのタイミングで伝えるかは自分で選ぶことができます。具体的な配慮としては、パニックや不安が強いときにクールダウンする時間や場所の確保、業務量や内容の調整などを求めることができます。
職場への伝え方に不安がある場合は、主治医に診断書を書いてもらったり、産業医や社内の相談窓口を利用したりすることもできます。
通勤や業務環境の調整
通勤時の電車やバスがストレス源になっている場合、それを軽減する工夫を試してみましょう。たとえば、時差出勤制度を利用して満員電車のラッシュ時間帯を避けたり、各駅停車を選んでいつでも降りられる安心感を得たりする方法があります。
また、感覚緩和法として、マスクで嗅覚への刺激を和らげたり、ヘッドフォンやイヤホンで音楽を聴いて聴覚への刺激を軽減したりすることも効果的です。
業務環境については、業務量の調整や不安を感じにくい席配置への変更など、可能な範囲での調整を上司や同僚に相談してみるとよいでしょう。
不安障害の方に向いている仕事・職場環境の選び方

不安障害の症状によって業務の遂行が難しくなった場合、転職や部署異動を検討することも一つの選択肢です。自分の特性に合った職場環境を選ぶことが重要になります。
たとえば、対人ストレスが少ない環境、自分のペースで進められる業務、在宅勤務などの柔軟な働き方が可能な職場などが挙げられます。
以下では、不安障害の方が働きやすい仕事や職場環境の選び方について、具体的に解説していきます。
対人ストレスが少ない職場環境
社会不安障害などの特性がある場合、人前で話す機会や不特定多数とのやり取りが少ない仕事の方が、気持ちを落ち着けて働きやすい傾向があります。静かで落ち着いた環境、たとえば私語や電話応対が少ないバックオフィスや、パーテーションで区切られた作業スペースなどは、周囲の視線や雑音に気が散らず集中しやすい環境です。
また、障害や特性への理解があり、相談窓口などのサポート体制が整っている職場を選ぶことも大切です。障害者雇用枠や特例子会社なども、配慮を受けやすい選択肢の一つといえるでしょう。
自分のペースで進められる業務特性
日によって業務量にムラが少なく、決まった手順で進められる定型的な業務は、急に忙しくなることで不安や緊張が増すことを避けられます。事務職や工場勤務、清掃などのように、業務内容があらかじめ決まっているルーティンワーク中心の仕事であれば、「今日は何をするのだろう」といった不安を抱えることが少なくなります。
また、データ入力や軽作業のように、自分のペースを保ちながら一人で黙々と進められる作業は、周囲を過剰に意識せず集中しやすいといえるでしょう。急な予定変更や臨機応変な対応が少ない業務を選ぶことも、負担軽減につながります。
在宅勤務や柔軟な働き方の選択
在宅勤務やテレワークが可能な仕事は、通勤の負担や対人ストレスを軽減でき、自宅でリラックスしながら作業を進められるメリットがあります。具体的な職種として、Webライター、Webデザイナー、プログラミング、データ入力、動画編集などが挙げられます。
また、フルタイム勤務にこだわらず、短時間勤務や週2〜3日勤務など、体調に合わせて働く時間や日数を調整できる職場も選択肢になります。「毎日決まった時間に出勤しなければいけない」と考えず、自分に合ったペースで働ける環境を選ぶことが、安定して仕事を続けるポイントです。
負担が大きくなりやすい仕事の特徴
不安障害の特性上、避けた方が負担が少ない可能性のある仕事の特徴もあります。たとえば、ノルマや結果に追われる営業職、不特定多数との折衝が多い接客業、ケースバイケースの判断や臨機応変な対応が常に求められる仕事などは、不安や緊張を強める場合があります。運転を伴う業務は、パニック発作や薬の副作用との関係もあるため、必ず主治医と相談して慎重に検討しましょう。
ただし、これらに当てはまる仕事でも、職場の理解や配慮、働き方の工夫次第では働くことが可能な場合もあり、一概に決めつけないことも重要です。
仕事探しで活用できる公的制度と支援機関

不安障害の方が休職や転職を考える際、経済的な不安を軽減する公的制度や、就職活動をサポートする支援機関を活用することが大切です。
傷病手当金や自立支援医療制度といった経済的支援のほか、ハローワークの専門窓口、障害者就業・生活支援センター、地域障害者職業センターなど、様々な相談先があります。
これらの制度や支援機関を利用することで、ストレスや不安を抱えることなく、自分に合った働き方を見つけやすくなるでしょう。
経済的負担を軽減する公的制度
不安障害による休職や転職を考える際に利用できる公的制度として、まず「傷病手当金」があります。これは健康保険から支給され、病気やケガで働けないときの生活を支える制度で、最長1年6か月、平均給与の約3分の2が支給されます。
次に「自立支援医療制度」は、精神科への継続的な通院にかかる医療費の自己負担を3割から1割に軽減する制度です。さらに「失業保険(雇用保険の基本手当)」は、失業中の生活支援と再就職をサポートします。なお、失業保険は原則として「いつでも就職できる能力と意思がある状態(=働ける状態)」でなければ受給できません。不安障害で「働けないため退職・休職」した場合、すぐに失業保険は受給できず、「受給期間の延長申請」を行うのが一般的です。
これらの制度は、それぞれ健康保険組合、市区町村窓口、ハローワークで申請できます。
参考:
全国健康保険協会|病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)
厚生労働省|自立支援医療(精神通院医療)の概要
厚生労働省|雇用保険制度
障害者雇用枠という選択肢
不安障害の方は、医師の診断書をもとに精神障害者保健福祉手帳を取得することで、障害者雇用促進法に基づく「障害者雇用枠」での就職を選択できます。
障害者雇用のメリットとして、業務内容や勤務時間の合理的配慮が受けやすいこと、障害を開示して働くため職場の理解が得られやすいこと、通院や治療との両立がしやすく長く働きやすいことが挙げられます。
一方で、求人数が限られていることや、給与や昇進面で制限がある場合もあります。そのため、障害者雇用と一般雇用の両方を視野に入れて、柔軟に応募を検討するとよいでしょう。
参考:厚生労働省|障害者手帳
ハローワークの専門窓口
ハローワークには、障害のある方向けの専門窓口が設置されています。障害者手帳がなくても相談が可能で、症状に配慮した職場の紹介や職場適応訓練、トライアル雇用の案内、職業相談、応募書類の添削、面接対策など、就職に関する幅広いサポートを無料で受けることができます。
地域によっては障害者専門窓口もあるため、転職を考える際には足を運んでみるとよいでしょう。また、障害者雇用専門の転職エージェントも選択肢の一つです。精神障害に理解のあるキャリアアドバイザーが、症状や特性に合った働き方を一緒に考えてくれます。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、就職活動の支援だけでなく、金銭管理や生活リズムの相談など、生活面の支援も一体的に行う機関です。ハローワークや医療機関、福祉機関と連携しているため、地域での暮らしと就労の両立をきめ細かく手助けしてくれます。
全国に設置されており、誰でも相談が可能です。仕事だけでなく日常生活全般について不安を感じている方にとって、生活と仕事の両面からサポートを受けられるこのセンターは、心強い存在といえるでしょう。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、不安障害などの症状に応じた専門的な職業リハビリテーションを提供する機関です。職業評価、職業訓練、指導などを通じて、自分に適した職業の発見や職場定着を支援してくれます。
また、就職後も希望に応じて、仕事の進め方や職場での人間関係についてアドバイスを受けることができます。専門的な支援を受けながら、自分の適性を見極め、長く安定して働くための基盤を作ることができる機関です。
参考:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構|地域障害者職業センター
不安障害の社会復帰準備はニューロリワークへ
不安障害の方が安心して社会復帰を目指すには、まず生活リズムを整え、体調管理の方法やビジネススキルを身に付けるなどの準備が重要です。就労移行支援事業所や自立訓練(生活訓練)事業所は、障害のある方が一般企業へ就職したり、休職中の方が復職や再就職を実現させ、安定して働き続けるために必要な準備を行う福祉サービスです。
「ニューロリワーク」の就労移行支援や復職支援では、うつ病や不安障害などの方を対象に、一人ひとりの「働きたい」という気持ちに寄り添ったサポートを行っています。生活習慣を整える「ブレインフィットネスプログラム」、認知行動療法に基づく「FITプログラム」、自己理解を深める「FINDプログラム」など、安定就労のための独自のプログラムを提供しています。応募書類の作成や模擬面接といった就職活動のサポートから、復職・再就職の支援、就職労後の定着支援まで、一貫したサポートが受けられます。不安を抱えながらも自分らしく働きたいと考えている方は、ぜひご相談ください。
監修者
藤本 志乃
公認心理師、臨床心理士
早稲田大学人間科学部健康福祉学科、同大学院人間科学研究科卒業後、荒川区教育センター、東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科にて心理士として勤務。
その後、日本赤十字社医療センター腎臓内科心理判定士を経て、2020年にオンラインで心サービスを提供するLe:self(リセルフ)を創業。
企業でのメンタルヘルス研修など予防的な心のケアに関する講演、コンテンツ作成などにも多く携わる。
著書にあふれる「しんどい」をうけとめる こころのティーカップの取り扱い方。
ホームページ:https://leself.jp/
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