就労・休職を目指す方が押さえておきたい 「筋トレがメンタル不調に与える影響を調べた研究」
メンタル不調によって離職や休職を余儀なくされた場合、まずは休息をとることが大切です。同時に、ストレスによってメンタル不調に陥らないよう、ストレスケアやストレス耐性づくりも重要です。
これから就労や復職を目指す方にとって、ストレスによる悪影響を抑える取り組みや方法は、ぜひとも押さえておきたいポイントです。ここでは、そんなストレスの対処法として、運動に焦点を当ててご紹介します。(休職と復職のことが3分でわかる「簡単!初めてのリワークガイド」のダウンロードはコチラから)
1.運動がメンタル不調に与える影響や効果
【「運動をしている人はメンタルが強い」という研究結果から学ぶ、メンタル不調の効果的な改善方法】でお伝えしたように、メンタル不調には有酸素運動が効果的であることが分かっています。また、他の研究によって筋トレがメンタル不調に対して効果的であることも示されています。
以下では、2018年にアメリカの研究者によって報告された科学的根拠のレベルが最も高いとされる研究方法を基にした研究結果についてみていきます。
2.「ランダム化比較試験のメタアナリシス研究」とは?
研究の吟味においては、研究方法の信頼度が重視されます。この研究方法の信頼度の目安を分かりやすく類型化した、エビデンスレベル(根拠のレベル)と呼ばれるものがあります。今回ご紹介するのは、この研究方法の信頼度が特に高いとされる「ランダム化比較試験のメタアナリシス研究」に基づく研究結果です。
「ランダム化比較試験」や「メタアナリシス」という言葉は、あまり馴染みのない言葉かもしれません。
「ランダム化比較試験」は、ある効果を科学的に検証するために行われる研究手法のひとつで、信頼度が高いといわれています。
一般的に、効果検証の試験では参加者を募り、検証したいことを実施してもらうことで効果が出たかどうかを検証します。これに対してランダム化比較試験では、検証結果の信頼度を高めるためにふたつの工夫をしています。
ひとつめの工夫は、「参加者をランダムに選ぶ」という点です。こうした工夫は、“たとえ効果が出ても、それが意図的に選ばれた参加者では疑わしさが残る”という懸念を払拭するという観点からなされています。すなわち、対照者をランダムに選ぶことで信憑性を高めています。
ふたつめの工夫は、効果を高めるため「何もしないグループなどをつくり、比較する」という点です。効果を検証したいことを実践してもらう「介入群」と、何もしない、もしくは普段通りの生活をしてもらう、または似たようなことをしてもらう「対照群」とのグループのふたつに分けて、介入方法以外の条件が公平になるようにしながら、本当に効果があるのか細かく検証していきます。
こうしたふたつの工夫から、“ランダム化”+“比較”+試験と呼ばれます。
なお、“メタアナリシス”とは「複数の研究結果を取りまとめ、分析すること」を指します。複数の研究結果を調べることで、より信頼性の高い結果を示すことができます。
今回ご紹介する研究は「ランダム化比較試験」のメタアナリシスであり、研究手法に対する科学的根拠の信頼度が非常に高いものです。この研究では、2017年8月以前に公開された33個のランダム化比較試験を分析しています。合計1,877人を対象に、筋トレとうつ症状の関連について調べました。その結果、筋トレもうつ症状を軽減することに効果があるということが示唆されました。
3.筋トレの負荷や時間について
今回のご紹介した研究では、「筋トレの時間、個人の状態」と「抗うつ効果」の関係について関連があることは示唆されていません。そのため、どれくらいの筋トレをすべきかについては明言することはできませんが、少なくとも筋トレがうつ症状の軽減に効果的であることは高い確率でいえると考えられています。
なお、「筋トレをすればするほど心身に良い影響を与える」というわけではなく、筋トレの負荷の度合については「過度なもの(※いわゆる“やりすぎ”)」はよくないと考えられています。研究結果によれば、過剰なトレーニングはメンタルの不調を引き起こすリスクがあるとも報告されています。激し過ぎる運動は気分を悪化させることがあるため、この気分変動がうつ病につながる可能性も示唆されています。
このような研究結果を踏まえると、適度な運動負荷こそが理想のメンタルケアへの取り組みであるといえます。
4.まとめ
メンタル不調に一定の効果が期待できる「適度な筋トレ」。メンタル不調によって離職した方や休職した方にとっては、ぜひとも押さえておきたいポイントです。まずは自宅で簡単な運動から慣れていってみてはいかがでしょうか。
もしも「自宅での筋トレだけでは就労や復職が難しい」と感じる方は、就労や復職への取り組みをサポートする就労移行支援事業所や自立訓練事業所を活用するという選択肢もあります。
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監修者
杉浦 理砂(脳科学者)
インクルード株式会社 ブレインフィットネス研究所 ディレクター
脳科学者、工学博士(応用物理)、東京都立大学特任准教授(現任)
【参考文献・参考サイト】
(写真素材:PIXTA、photoAC)
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