「立ち直る力」を強くするポジティブ感情に着目して、安定した就労・復職を実現
メンタル不調によって離職や休職された方にとって、「立ち直る力」を高めるのは就労や復職を目指す上で大きなポイントといえます。また、「立ち直る力」はポジティブ感情を高めると考えられています。
ここでは、安定した就労や復職を実現するための取り組みのひとつとして、ポジティブ感情が人にどのような影響や効果を与えるのか、そしてポジティブ感情の高め方についてご紹介します。(休職と復職のことが3分でわかる「簡単!初めてのリワークガイド」のダウンロードはコチラから)
1.ポジティブ感情とは?
ポジティブ感情は、明るさや自信、快感、ぬくもり、楽観性、愛、希望、喜び、感謝など、人が感じるプラスの感情を指します。
ポジティブ感情には、以下の効果があるといわれています。
・アイディアが湧くようになる
・行動範囲が広がる
・不安や気分の落ち込みを防ぐ
・立ち直る力を強くする
・知的スキルを高める
・対処能力を高める
なお、ポジティブ感情はウェルビーングを構成する5つの要素である「PERMA」のひとつめの「P(Positive Emotion)」に該当します。
ポジティブ感情について考える上で、下図を用いたテストが行われることがあります。このテストでは、「上の図に似ているのはA? それともB?」と問いかけ、AとBのいずれかを選んでいただきます。
Aを選択した方は、物事をより大きな構図や概念で捉える傾向があるタイプといわれています。これに対してBを選択した方は、物事を細かいパーツに分けて見る傾向があるタイプといわれています。ポジティブ感情を多く持つ方は、Aを選ぶ方に多いといわれています。
2.ポジティブ感情と「拡張ー形成理論」
ポジティブ感情がもたらす効果について知る上で、「拡張ー形成理論」が大きなポイントとなります。
「拡張ー形成理論」は、心理学者でありノースカロライナ大学の教授であるバーバラ・フレドリクソンが提唱した領域です。フレドリクソンは、「喜び、安らぎなどのポジティブ感情は私たちの視野を広げ、思考や行動の幅を増やす拡張効果をもたらし、この効果は知識・スキル・人間関係などのリソースの形成に役立つ」と述べています。
▼ポジティブ感情の主な効果
「拡張ー形成理論」では、ポジティブ感情の主な効果について以下のように説明しています。
①思考や行動の範囲を広げる、創造性を高める。
ポジティブ感情があると、多くのチャンスを見出すことができるようになります。また、柔軟性が高まり、寛容になると考えられています。
②回復力を高める。
ポジティブ感情は、ネガティブな出来事にポジティブな意味を吹き込むため、立ち直る力などの回復力が高められるといわれています。
③知的・心理的・社会的・身体的スキルの形成を促進する。
ポジティブ感情を積み重ねることで、その後に役立つさまざまなリソース(能力やエネルギー)が形成されると考えられています。
④ネガティブな感情を打ち消す。
ポジティブ感情は、不安やストレスなどネガティブな感情を消し去る効果があるといわれています。
3.ポジティブ感情に関する研究
「拡張ー形成理論」を提唱したフレドリクソンは、ポジティブ感情が脳や心身に与える影響について映像を用いて調べました。実験では被験者を5つのグループに分け、それぞれ以下の動画を観るよう依頼しました。
映像を観た後、被験者が「やりたいこと」を書き出してもらいました。その結果、①と②の映像を観たグループは、書き出したやりたいことの数が著しく多いという結果になりました。一方で、④と⑤の映像を観たグループは、書き出したやりたいことの数が少ないという結果になりました。
また、ポジティブな映像を観た被験者は、ネガティブな映像を観た被験者と比べて可能性を広げる力が強まり、ストレス反応から速やかに回復したという結果があります。
さらに、「スピーチ課題を行う」というストレス反応を受けた後に①~⑤のそれぞれの映像をそれぞれ観てもらった結果、①と②のグループは③~⑤に比べてストレス反応が平常時に戻るまでの反応が早かったと報告されています。加えて、感情だけでなく血圧や心拍数も速やかに元に戻す効果があることが示唆されました。
その他にも、パートナーを失った方を対象に「悲しみに暮れる期間」を調査したところ、目にしわができたり声を出して笑ったりする人ほど、悲しみに暮れる時間が短かったということが分かりました。また、怒りを感じている人と比べて、その後に社会と関わる機会が多いことが判明しました。こうしたことから、よく笑う人は新たなパートナーを見つける可能性が高いことが分かりました。
これらの研究結果以外にも、ポジティブ感情を経験している医師はそうでない医師と比べてより正確な判断が下せるといった研究報告もあります。
4.ポジティブ感情の高め方
ポジティブ感情を高める方法としては、「3つの良いことエクササイズ」「リフレーミング」「他者への親切」などの方法があります。
①3つの良いことエクササイズ
毎日、その日の良かったと思うことを3つと、その理由を書き留めます。内容は、日常にある些細なことで問題ありません。たとえば、「食事がおいしく作れた。理由は、家族が喜んでくれたから」「仕事が捗った。理由は、心に余裕ができたから」など、このような簡易な内容や理由を書き留めてみましょう。
こうした取り組みは、毎日継続して行うことで幸福感が長続きすることが確認されています。今日から取り組むことができるのが、大きな魅力といえます。1日の終わりに取り組むことで、前向きな気分で1日を終えることができます。
②リフレーミング
ネガティブな状況の中で、ポジティブな事柄を見つけるトレーニングです。たとえば、散歩に行こうと思ったけれど外で雨が降っているという場合には、「観たかったDVDを観よう」と切り替えるようなイメージです。
物事に対して他の視点を持つことで、見逃した点や新たな価値に気づき、問題や課題に対する解決策が見つかることもあります。また、弱みを強みに変えられるなど、物事がポジティブな方法へ向かう可能性が高まります。
③他者への親切
オックスフォード大学が行った、他者への親切と幸福度について調べたメタアナリシス(※複数の研究結果を取りまとめた分析で、より信憑性の高い結果を示すことが可能)の研究によると、27の研究論文を分析した結果、他人に親切にすることが幸福度に影響していることが分かりました。
ここでいう「親切」とは、日常生活にあるちょっとしたことでも問題ありません。たとえば、荷物を持っているのが重そうな人がいれば手伝ったり、近年になって大きな流行りをみせているクラウドファンディングに参加してみたりなど、こうした手軽なものであっても得られるものが大きいかもしれません。
これら以外にも、ポジティブ感情を高める方法としては、
・心地良いことを十分に味わう
・他者との絆とつくる
・感謝の言葉を伝える
・好きなことに夢中になる
・自分の強みを活かす
といったものがあります。
また、フレドリクソンによれば、マインドフルネスもポジティブ感情を高める方法のひとつであると述べています。
5.まとめ
ポジティブ感情には、立ち直る力を強くしたり、不安や気分の落ち込みを防いだりといった効果があります。メンタル不調によって離職や休職に至った方は、ここで挙げたポジティブ感情を高める方法に取り組んでみてはいかがでしょうか。
一人でメンタル不調を改善させ、就労や復職を実現するのが困難であると感じる方は、就労・復職を専門とする就労移行支援事業所や自立訓練事業所を活用するという選択肢もあります。
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記事監修者
H.S(公認心理師/精神保健福祉士)
長年精神科病院に勤務し、急性期から退院後まで、幅広く精神障害者への支援に従事。
精神保健福祉士、公認心理師。高崎健康福祉大学非常勤講師。
【参考文献・参考サイト】
(写真素材:PIXTA、photoAC)
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