嫌なことが頭の中で繰り返される「反芻思考」が続く原因と、その対処法【前編】
日々の生活の中で、「あのとき、ああしておけばよかった」「就職・復職できるか不安だ」など、頭の中で繰り返し同じこと(嫌なこと)を考え続けてしまうことがあるかもしれません。このような思考は「反芻思考(はんすうしこう)」と呼ばれており、うつ病などのメンタル不調と深い関連があります。
今回は、こうした反芻思考がなぜ続くのか、その原因とその対処法についてみていきます。(メンタル不調からの就労を目指す方が活用できる「ニューロリワーク」の資料請求はコチラから)
反芻思考とは
「反芻」という言葉は、牛や羊などの動物が一度飲み込んだ食べ物を口の中に戻し、再び咀嚼して胃に戻す動作を繰り返し行うことを指します。ネガティブな出来事を繰り返し思い返しては落ち込むという精神活動が動物の反芻に似ていることから、人間の精神活動にも「反芻」という言葉が用いられるようになりました。
反芻思考には、2つの側面があります。ひとつは、過去を悔やみ未来を想い煩う、不安や疲れの原因になるネガティブな考え込みです。もうひとつは、自分が落ち込んでいる原因を分析するような反省的な熟考です。後者の反省的な熟考は長期的には抑圧を軽減させることが研究によって示されていますが、前者のネガティブな反芻思考は抑うつ症状やうつ病とも強い関連性があり、短期的にも長期的にも抑うつに影響することを示した研究が多く存在します。
反芻思考が繰り返される原因①目標と現実の乖離
反芻思考が繰り返される原因のひとつは、目標と現実の乖離が起きていることです。 現在の状態と目標とする状態との間に差が生じていることを認知したときや、目標を達成するのが難しそうだと感じたときに、現実と目標の不一致の中でネガティブな感情が生まれ、反芻が生じやすいといわれています。
ある研究では、個人の目標の達成度が低いときや個人にとって重要な目標を追求しているときに反芻思考が生じやすいと報告されています。また、他の研究では目標の中でも特に外発的にコントロールされた目標のときほど反芻思考が生じやすいことが示されています。
別のある研究では、解決済みの目標あるいは未解決の目標、それぞれの目標について10分間想起した後に実験課題を行ない、課題中に反芻思考の有無を調査しました。未解決の目標について想起したグループは、解決済みの目標について想起したグループよりも目標についての反芻思考をより多くしていたことが報告されました。つまり、未達成の目標を認知することや現実状況と目標の乖離により反芻思考が生じており、この不一致が持続する限り反芻思考が持続すると考えられます。
こうした目標と現実の乖離から繰り返される反芻思考への対策としては、現在の状態と目標とする状態との差を認知したときに「目標達成に向けて行動すること」や「目標の修正を行うこと」の有効性が指摘されています。
「目標達成に向けて行動すること」とは、目標が達成できないことに対してネガティブな気持ちになり思い悩んでいても何も解決せずストレスが溜まる一方なので、実際に目標に向けて行動をするということです。
「目標の修正を行うこと」は、目標の中に小目標を設定したり、目標の見直しを行なったりして、現実と目標とのギャップを埋めるという対策です。
例えば、仕事において「プロジェクトを完遂させる」という目標があり、現実的にその目標とのギャップが大きいと感じたときは、漠然とした不安に駆られて反芻のスパイラルに陥る前に「何を、いつまでに、どうすればいいのか」をプランニングし、アウトラインを把握して見通しを立てられれば不安もストレスも軽くなります。
またTo-doリストを作成し、日々やることに落とし込んでいくのも対策のひとつです。その日のリストをクリアできれば日々達成感が得られ、目標と現実との乖離から生じる漠然とした不安も減り、反芻思考で悩むことも少なくなると考えられます。(メンタル不調からの就労を目指す「ニューロリワーク」の見学をご希望の方はコチラから)
反芻思考が繰り返される原因②注意資源の枯渇
反芻思考が繰り返されるもうひとつの原因は、注意資源の枯渇、すなわち注意の抑制が効かなくなることです。ストレスや抑うつ状態が注意の抑制を弱め、それにより反芻思考が促進されるという状態が、注意資源の枯渇による反芻思考の持続です。わかりやすくいうと、反芻思考が生じることでそれまでの思考の流れが中断され、目の前のタスクへの注意が削がれた結果として反芻思考がさらに助長されるということです。
これは「解放の障害仮説」という考え方に基づきます。解放の障害仮説とは、反芻思考が生じたときにネガティブな思考に注意が向いているのを解放できず、結果として反芻思考が持続するというものです。
ある研究では、抑うつ症状のある方に反芻思考を誘導した結果、認知課題の成績の低下が確認されたと報告されています。これは反芻思考によって即時的に注意資源が減少したことで、認知課題の成績が低下したと考えられます。反芻思考に注意が集中してしまい、今やるべきことに注意が向かず、その結果、反芻思考がさらに持続してしまいます。
こうした注意資源の枯渇が要因で繰り返される反芻思考への対策には、ポジティブ感情を増やすことがおすすめです。
ポジティブ感情とは、明るさ・自信・楽観性・ぬくもり・快感など、自分が感じるプラスの感情のことです。ポジティブ感情が増えると「アイディアが湧くようになる」「行動範囲が広がる」「不安や気分の落ち込みを防ぐ」「立ち直る力を強くする」「知的スキルを高める」「対処能力を高める」など思考や行動のレパートリーが増し、社会的・心理的資源などの永続的な資源の構築に役立つといわれています。
また、ポジティブ感情は、視覚的な注意の範囲を拡張させることが示唆されています。反芻傾向の高い人は注意の範囲が狭くなるという特徴があり、注意の狭窄化によって生じた反芻がネガティブな気分を強め、さらにネガティブな反芻に陥るリスクがあります。ネガティブな気分の時は注意が狭窄化しており、自己のネガティブな思考から注意が解放できなくなります。そのため、注意が他のことに向かず、自分の殻に閉じこもりやすくなります。本当は目の前の仕事をしなければならないときにも、なかなか仕事に手がつかないといったような状態です。一方で、ポジティブな気分のときは視覚的な注意の範囲(視野)が拡張するため、ネガティブな反芻に誘導されやすい何らかのトリガーがあっても自分の殻に閉じこもりにくくなります。このため、ポジティブな感情を高め注意の範囲を拡張させることは、反芻の抑制につながります。
ポジティブ感情は、以下のようなことによって増やすことができます。
・心地よいことを充分に味わう
・他者との絆を作る
・自分のした親切を認識する
・感謝の言葉を伝える
・好きなことに夢中になる
・自分の強みを活かす
必ずしも上記の全てを実践する必要はなく、自分にとって手軽に実践できるものから試していくことが大切です。
まとめ
毎日の生活の中で意図せず反芻思考が繰り返される場合、その原因を明確にすることが対策への第一歩です。原因を把握することで、解決策を明確にすることができます。次回は、今回で触れなかった残りのふたつの原因と対処法についてみていきます。(「ニューロリワーク」の見学をご希望の方はコチラから)
監修者
杉浦 理砂(脳科学者)
インクルード株式会社 ブレインフィットネス研究所 ディレクター
脳科学者、工学博士(応用物理)、東京都立大学特任准教授(現任)
【参考文献・参考サイト】
(写真素材:PIXTA、photoAC)
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