脳科学者監修|マインドフルネスとは?うつ病にも効果的?|内容や効果、実践方法について
現代社会に生きる人々は日々、さまざまなストレスにさらされています。ストレスにさらされ続けると、脳が疲弊してしまう場合があります。そして、うつ病にはこの脳の疲労が深く関係しているのです。
この脳疲労を回復し、ストレスケアを行う方法の1つにマインドフルネスという瞑想をベースとしたプログラムがあります。今回は脳疲労が我々に与える影響や脳疲労の回復に効果的であるといわれているマインドフルネスについてご紹介します。
1.マインドフルネスとは
マインドフルネスとは瞑想をベースにして生まれたプログラムで、脳の疲労の回復やストレスケアに有効だといわれています。
仕事で、プライベートで…と様々なストレスにさらされ、目まぐるしく変化する現代社会に対応するために脳をフル活用している現代社会人にとってはまさに必要なプログラムといえるでしょう。
瞑想というと、宗教的なイメージを持つ方もいるかもしれません。
しかし、マインドフルネスは瞑想から宗教的な要素を取り除いた、科学的に効果が実証されているプログラムであり、実際に世界的な大企業でも研修の1つとして取り入れられています。
例えば、Googleにおいては、社員のストレス軽減だけではなく、集中力、創造力向上を目的として、マウンドフルネスの研修プログラムをとりいれているそうです。
また、その他にもApple、IntelやFacebookなど名だたる大企業がマインドフルネスを自社の研修プログラムに取り入れています。
2.脳も身体と一緒で疲労する
ストレスや過活動が原因となり脳は疲労する
脳の疲労回復といっても、自分自身には関係がないと思われる方もいるかもしれません。
過度な肉体労働のあとには身体が疲労で動かないといった経験は誰しもあるでしょう。
身体がだるい、痛いといったような身体に起きた疲労については、我々は敏感に反応して、休息をとります。
一方で、脳の疲労についてはあまり意識していない人が多いのではないでしょうか。
しかし、脳も身体と一緒で過度なストレスを感じたり、働かせ過ぎたりすると疲労します。
例えば、1日の仕事が終わった後のことを思いだしてください。
システムエンジニアや事務職など身体を使わない仕事でも、業務量が多かったり、スケジュールに追われた後などは強く疲労を感じることはありませんか。
また、理不尽な理由で叱られ、言い返せない状況が続いたり、クライアントのミスで業務が思うように進まない時など、疲労を感じる方は多いのではないでしょうか。
このような状況の時に感じる疲労感や、激しい運動をしているわけでもないのに慢性的に感じる疲労感などは、肉体の疲労よりも、脳の疲労が原因で生じるといわれています。
例えば仕事に追われている時は、交感神経の過活動すなわち自律神経を酷使している状態が続き、脳にダメージが蓄積し、結果的に自律神経機能が低下します。
また、 不満をため込んで、ストレスを発散できない状態の時、大脳新皮質の前頭前野が大脳辺縁系の感情を司る扁桃体という脳の部位の活動を無理やり抑えた状態になります。この状態が長期に渡ると、思考力・判断力などの高度な認知機能を司る前頭前野に疲労が蓄積し、機能低下が生じます。
その結果、集中力が低下したり注意力が散漫になり、仕事のパフォーマンスが低下したり、イライラしやすくなるなど感情の制御ができなくなります。
あれこれ考えてしまう時間も脳疲労の原因に
それでは、特に意識的な活動をしていないときは、脳は休息をとることができているのでしょうか。
特に意識的な活動をしていないときでも、脳は次、何か起こる瞬間に備え、脳内のデフォルトモードネットワークと呼ばれる領域を活動させ続けています。
これは車でいうところのアイドリングのような状態です。
地震が起きた時などとっさに反応するためにも、デフォルトモードネットワークは大切な役割を果たします。
しかし、デフォルトモードネットワークが過剰に働いてしまうのは考え物です。
例えば、ボーッとしている間でも、「さっきは言い過ぎたかな」「明日のプレゼン不安だな」とあれこれ雑念が湧いている時、デフォルトモードネットワークは過剰に活動しています。
このようなとき、デフォルトモードネットワークが消費するエネルギー量は、意識的な活動をしている時に使用される脳のエネルギーの20倍以上にも達するそうです。
つまり、私たちはゆっくり、リラックスしているつもりでも、あれこれ雑念が湧いている時は脳を休めることができず、むしろ、酷使してしまっているというのです。
それでは、この脳疲労が脳に与える影響について次の章でみていきましょう。
脳疲労が脳に与える影響
脳疲労が蓄積すると、脳が疲労に耐えることができず、「前うつ状態」と呼ばれる、うつ病と似た状態になってしまうことがあります。
この「前うつ状態」になると、脳の働きに支障をきたし始めます。
例えば、私たちは嫌なことや不安を感じるような事態に直面すると、脳はその刺激に応じて脳内物質を放出します。
この脳内物質こそが、私達が不安な気持ちや嫌な気持ちを感じる原因です。
「前うつ状態」やうつ病になると、この脳内物質を調整する機能がうまく働かなくなり、いつも不安な気持ちになる、イライラした気分が晴れないといったことが起こります。
また、それによって集中力や判断力も低下し、通常であればできる作業が困難になるといった症状も現れることがあります。
さらに、この脳疲労が蓄積した「前うつ状態」が継続すると次第に回復が困難となり、うつ病にまで発展する可能性があります。
このような深刻な事態に陥る前に、早く脳の疲労を回復することが重要です。
どうすれば脳の疲労を回復することができるのでしょうか。
脳の疲労を回復する方法の一つに、マインドフルネスと呼ばれる瞑想をベースとしたプログラムがあります。次の章では脳疲労を回復するマインドフルネスについてご紹介します。
3.マインドフルネスの効果について
マインドフルネスは脳の疲労回復に効果的
すでにご紹介したように脳は何も考えていない状況でもあれこれ雑念が湧いている時、デフォルトモードネットワークという領域が活発に働いています。
そして、このデフォルトモードネットワークは脳が消費するエネルギーの60~80%を占めると言われているのです。
つまり、脳の疲労を回復するためには、ただ漠然とリラックスするのではなく、意識的に脳を休める必要があります。
マインドフルネスでは瞑想を行い、「今、ここ」に集中します。
意識を集中することにより、このデフォルトモードネットワークの過活動を抑制し、脳の疲労を緩和することで脳の疲労回復を促す効果が期待できます。
うつ病の再発防止にも有効
マインドフルネスには脳の疲労を低減する効果があるということをご紹介しました。
しかし、マインドフルネスの効果はそれだけではありません。
うつ病は一度回復しても再発する可能性が高い病気として知られていますが、マイドフルネスにはうつ病の再発を予防する効果があることも実証されているのです。
ある研究論文において、うつ病患者145人に対して、8週間のマインドフルネス療法を行ったグループと行わなかったグループについて1年間の追跡調査が実施された結果が報告されています。
この追跡調査の結果によると、3回以上うつ病を再発している患者においてマインドフルネス療法を施したグループの方がうつ病の再発率が有意に 低下したそうです。
つまり、うつ病の再発に悩まされている患者にこそマインドフルネスは大きな効果を発揮する可能性が高いといえるでしょう。
4.マインドフルネスを実践するのは
最後にマインドフルネスの実践方法について簡単にご説明します。
マインドフルネスは瞑想をベースとしたプログラムであると説明しました。
瞑想というと難しいように感じるかもしれませんが、個人で簡単に始める方法もあります。
具体的には、まず安定した姿勢をとりましょう。
次に、自身の呼吸に意識を集中します。「吸って」「吐いて」の呼吸の流れに意識を集中するだけでも、デフォルトモードネットワークの活動を抑制します。
時間は短時間でも効果があります。
米国のウエイクフォレスト大学医学部の報告によると、1日20分、週4回のマインドフルネス瞑想でも脳のパフォーマンスを向上させる効果があったと報告されています。
朝起きたとき、夜寝るとき、または電車のなかで揺られている時間など日常生活の合間にとりいれることがおすすめです。
監修者
杉浦 理砂(脳科学者)
インクルード株式会社 ブレインフィットネス研究所 ディレクター
脳科学者、工学博士(応用物理)、東京都立大学特任准教授(現任)
【参考文献・参考サイト】
書籍「ブレインフィットネスバイブル 脳が冴え続ける 最強メソッド」(著者:髙山雅行・杉浦理砂)
https://brain-fitness.jp/rest/
https://psycnet.apa.org/record/2000-05084-010
(写真素材:PIXTA、photoAC)
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