ワーキングメモリを鍛える方法はある?|大人の脳トレーニング

ワーキングメモリの低下は、仕事の効率や日常生活に大きな影響を与えることがあります。この記事ではその仕組みや低下の原因をわかりやすく解説し、改善が期待できる実践的なトレーニングや生活習慣の工夫を紹介します。記憶力や集中力に悩む方が、自分に合った方法で脳を効率的に活用するためのヒントを得られる内容です。
そもそもワーキングメモリとは?短期記憶との違いを解説
最近、物忘れが多くなったと感じたり、集中力が続かないと悩んだりしていませんか。実はこうした困りごとは、脳の「ワーキングメモリ」という機能と深く関係している可能性があります。
ワーキングメモリとは、情報を一時的に保持しながら処理する脳の働きのことです。いわば「脳の作業台」のような役割を担い、日常生活における学習、仕事、コミュニケーションなど、さまざまな場面で重要な機能を発揮しています。
この章では、ワーキングメモリがどのような働きなのかを解説し、短期記憶や長期記憶といった似た言葉との違いを明確にします。
「情報を一時的に処理する能力」を分かりやすく解説
ワーキングメモリは、単なる記憶ではありません。入ってきた情報を一時的に保持しながら、整理や処理をおこなう「脳の作業台」のような機能です。
たとえば会話では、相手の話を一時的に覚えながら、内容を理解し、適切な返答を考えています。料理では手順を思い出しながら調理を進め、計算では「3+4+5」を解く際に途中の結果を覚えながら次の計算をおこないます。
このワーキングメモリは脳の前頭前野が担っており、その容量には個人差があります。作業台が大きな人もいれば小さな人もいるように、処理できる情報量は人それぞれ異なるのです。
単純な記憶ではない?長期記憶・短期記憶との役割の違い
ワーキングメモリと短期記憶の大きな違いは、情報に対して「操作を加えるかどうか」です。短期記憶は情報をそのまま保持するだけですが、ワーキングメモリは保持した情報を使って思考や判断をおこないます。
長期記憶、短期記憶、ワーキングメモリを表に大まかにまとめると以下の通りです。
記憶の種類 | 機能 | 特徴 |
短期記憶 | 情報を一時的に保持する | 数十秒程度しか保持されず、単純な暗記に使われる |
ワーキングメモリ | 情報を保持しつつ、操作・処理をおこなう | 短期記憶の機能を含み、思考や行動の基盤となる |
長期記憶 | 情報を長期間保存する | 容量が大きく、知識や経験として定着している |
これらの記憶は連携して機能し、必要に応じて長期記憶から情報を呼び出しながら、ワーキングメモリで統合・処理することで学習や日常活動を支えています。
ワーキングメモリの低下はなぜ起こる?仕事や生活への影響
「指示をすぐに忘れてしまう」「複数の作業を同時にこなせない」「集中力が続かない」といった悩みを抱えていませんか。これらの困りごとは、ワーキングメモリの機能低下が原因かもしれません。
ワーキングメモリの働きが弱くなると、日常生活や仕事のさまざまな場面で具体的な支障が現れます。大人になってから感じる記憶力の低下や注意力の散漫さも、実はワーキングメモリと深く関係しているという見方もあります。
機能低下の背景には、生まれつきの脳の特性や発達障害の特性だけでなく、ストレスや睡眠不足といった後天的な要因も関わっています。まずは自身の状況を理解し、適切な対策を見つけていきましょう。
大人のワーキングメモリが低い方の主な特徴
ワーキングメモリの機能が低い場合、日常生活や仕事で次のような困りごとが現れることがあります。
- 指示が覚えられない、聞き漏らしが多い
- 物忘れが多い
- 複数の作業を同時にこなすのが苦手
- 文章を読んでも内容を理解しにくい
- 話がまとまりなく、会話についていくのが難しい
- 集中力が続かず、気が散りやすい
これらの特徴は、単なる不注意や性格の問題ではなく、脳の機能的な特性による可能性があります。
ワーキングメモリの機能低下には、加齢による自然な変化のほか、慢性的な睡眠不足や過度なストレスも影響することが分かっています。
発達障害(ADHDなど)の特性との関連
発達障害、特にADHDやASDの特性とワーキングメモリの機能には関連があるという見方もあります。
この見方によると、ADHDの主な特性である「不注意」や「衝動性」は、ワーキングメモリの機能不全と密接に関係していると考えられています。これは、情報の保持や、その情報を使って注意を維持し、計画的に行動することが困難になるためです。
ASDでは、会話の流れを追いながら相手の表情や声のトーン、言葉の意味など複数の社会的情報を同時に処理・統合することが難しい場合があります。これもワーキングメモリの特定機能と関連している可能性があります。
ただし、ワーキングメモリの低さが直ちに発達障害を意味するわけではありません。気になる場合は専門機関への相談をおすすめします。
ワーキングメモリを鍛える方法|トレーニングと生活習慣の改善
ワーキングメモリの課題を改善する方法として、日常生活の中で取り組める具体的な方法がいくつか挙げられています。主なアプローチは大きく2つに分かれます。
1つ目は、ワーキングメモリそのものを「鍛える(トレーニング)」方法です。2つ目は、ワーキングメモリの「負担を減らす(解放)」工夫です。そしてこれらの効果を最大限に発揮するためには、睡眠や運動といった「生活習慣」の見直しが土台として重要と考えられています。
この章でご紹介する方法は、特別な道具を必要とせず、自宅や通勤中でも手軽に始められるものばかりです。継続することで効果が現れるため、無理をせず今日から少しずつ取り組んでいきましょう。
脳を鍛えるトレーニングとワーキングメモリを解放する工夫
ワーキングメモリを鍛える効果が期待できるトレーニングとして、以下の取り組みがあります。
<ワーキングメモリを鍛えるトレーニング>
- 暗算・暗記:買い物の合計金額を暗算したり、電話番号を覚えたりする
- デュアルタスク:ウォーキングしながら計算するなど、2つのことを同時におこなう
- 遊び・ゲーム:後出しじゃんけん、逆さ言葉クイズ、数独、トランプの神経衰弱など
容量を圧迫しないためには「ワーキングメモリの解放」という工夫ができます。具体的には以下の方法があります。
<ワーキングメモリを解放する工夫>
- メモを取る:やるべきことや気になることを書き出し、脳の負担を減らす
- 脳を休ませる:マインドフルネスなどで脳の疲労を回復させる
近年の研究では、ワーキングメモリ自体を鍛えることには限界があるという説もありますが、一方で、特定のタスクの上達や能力向上は期待できるという見方もあります。
機能の土台となる基本的な生活習慣の見直し
ワーキングメモリのパフォーマンスを維持・向上させるには、基本的な生活習慣が不可欠です。基本的な生活習慣を整えるための取り組みとして、以下の3つのポイントを意識して見直してみましょう。
- 栄養バランスの取れた食事…朝食を抜かない、トリプトファン(脳の働きを助ける栄養素)を含む大豆製品、バナナ、卵などを意識的に摂取する
- 質の良い睡眠…脳の疲労回復と機能を維持する。体内時計を整えるため、毎日同じ時間に起床・就寝する習慣をつける
- 無理のない運動…1日20~30分程度のウォーキングなど、無理のない有酸素運動をおこなう。太陽光を浴びることでセロトニンの分泌が促進される。また脳の血流を改善し、認知機能向上につながることが期待されている
これらの生活習慣が体力や集中力の回復・維持に繋がり、ワーキングメモリの働きを支える土台となることが期待できます。
専門的な支援でワーキングメモリの課題を改善することはできる?
ワーキングメモリの課題は、日常生活の工夫やセルフケアである程度サポートすることができますが、すべてを一人で解決するのは簡単ではありません。特に仕事や生活に支障が出ている場合は、専門的な支援を受けることで客観的な評価や適切なトレーニングが期待できます。
また、医療機関や復職支援施設などでは、個々の特性に合わせた方法でサポートする取り組みが行われています。
以下では、セルフケアの限界と専門機関に相談するメリット、そしてリワークプログラムでの支援について解説します。
セルフケアの限界と専門機関に相談するメリット
セルフケアやトレーニングは有効ですが、一人で続けることには困難もあります。モチベーションの維持が難しく、客観的な評価やフィードバックが得られないため、改善の実感を得にくい場合があります。
専門機関では、医師や臨床心理士による客観的な評価を受けられます。ウェクスラー式知能検査などの認知機能検査により、ワーキングメモリを含む認知特性を把握できるのです。
専門家の支援を受けることで、個人の特性に合った具体的な対策や支援計画を立てることが可能になります。これにより課題の改善が進み、より快適で充実した生活につながることが期待できます。一人で抱え込まず、適切な支援を求めることが重要です。
リワークプログラムでワーキングメモリの向上を目指す
復職支援をおこなうリワーク施設でプログラムを受けることも、ワーキングメモリの改善が期待できるサポートのひとつとなるかもしれません。
復職や再就職、または初めての就労を支援するニューロリワークでは、メンタル不調による休職者への復職・再就職支援とともに、認知機能の維持・向上を目指すためのプログラムが充実しています。
具体的には、以下のようなプログラムがあります。
- ブレインフィットネスプログラム:生活習慣の改善をサポートし、脳や心、身体の健康の土台作りをおこないます。
- 模擬就労やグループワーク:集中力や持続力を養う訓練、コミュニケーション能力の向上を図る訓練を実施します。
- ストレス対処法を学ぶプログラム:認知行動療法に基づくプログラムで、ストレスに対するセルフケアスキルを身につけます。
ワーキングメモリを鍛えて仕事と生活の質を高めよう
ワーキングメモリの向上は、現代社会で求められる認知能力を高めるために重要です。物忘れや集中力の低下に悩む大人にとって、ワーキングメモリを鍛えることは仕事の効率化や日常生活の質向上に直結します。
セルフケアによるトレーニングや生活習慣の改善は重要な第一歩ですが、個人の努力だけでは限界があります。客観的な評価を受け、専門的なサポートを活用することで、より効果的な改善が期待できるでしょう。
ニューロリワークのような専門機関では、個人の特性に合わせたプログラムを通じて、ワーキングメモリの向上が期待できるトレーニングも行っています。専門スタッフの支援のもと、客観的な視点で自身の課題と向き合い、無理のないペースで仕事復帰を目指せることが大きなメリットです。
見学や相談は無料ですので、まずは気軽にお問い合わせください。
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