大人のADHD治療法はある?症状の特徴や病院での診断、改善法を解説

大人になってからADHDの可能性を感じて戸惑う方や、その家族に向けて、症状理解から診断・治療、日常生活での具体的な対処法までを網羅的に解説します。本記事を読むことで、適切な医療機関の受診方法や治療の進め方が分かり、生活改善につながる行動のヒントを得られます。
大人のADHDとは?症状の特徴と診断の背景
ADHD(注意欠陥多動性障害)は、不注意と多動・衝動性を主な特徴とする発達障害です。幼少期から症状が続いているものの、個性の範囲とみなされて気づかれないことも少なくありません。
近年、仕事で特性が強く目立つことをきっかけに、大人になってから初めて診断を受ける方が増えています。成人後は多動性が改善する一方で、不注意は年齢を重ねても残りやすく、仕事での約束事や同時並行作業が求められる場面で症状が顕著に現れやすいといわれています。
また、長期間にわたって困難を抱え続けることで、うつ病や不安障害などの二次障害を併発するリスクも高まる可能性が指摘されています。
なぜ大人になってからADHDと診断されるのか
ADHDは本来、幼少期から症状が続いている発達障害ですが、子どもの頃は本人の適応力や努力、家族のサポートによって症状が目立たない場合があります。
しかし、就職すると学生時代と比べて覚えることや同時並行で作業する必要が増えるため、それに対応しきれずに症状が顕著になることがあります。また、昇進や異動によって仕事が手に負えなくなってしまうケースも少なくありません。
同僚や上司から指摘されて初めて自覚することも多く、大人になってから初めて医療機関を受診し、ADHDと診断されるケースが増えています。
成人期にみられる「不注意」「多動性・衝動性」の具体例
成人になるにしたがって、多動性・衝動性は改善することが多いとされますが、不注意に関しては年齢を重ねても残ることが多いとされています。
大人のADHDでみられる「不注意」「多動性・衝動性」の症状について、仕事や日常生活における困りごとの例としては以下が挙げられます。
特性 | 具体例 |
不注意 | ・ケアレスミスが多い ・忘れ物やなくし物が多い ・約束や時間を守れない ・片付けや整理整頓が苦手 ・集中力が続かない |
多動性・衝動性 | ・じっとしているのが苦手 ・思ったことをすぐ口に出してしまう ・他人の会話や行動に割り込んでしまう ・順番待ちが苦手 ・衝動買いをしてしまう |
ADHDに伴う二次障害のリスク
ADHDの特性により家庭や職場でうまくいかないことが多くなると、慢性的にストレスを自覚することから二次障害が出現する場合があります。
二次障害の具体例としては、以下が挙げられます。
- 内側に向かうもの…社交不安、食欲不振、頭痛、不眠、引きこもり、抑うつ状態、依存症
- 外側に向かうもの…イライラ、対人トラブル、人への敵意、攻撃性
二次障害を合併すると症状が複雑になり、生活への支障が大きくなってしまうことがあります。なるべく早期に気づいて診断につなげ、早めに対処することで二次障害を予防・進行抑制していくことが重要です。
もしかしてADHD?受診先の選び方と診断の流れ
日常生活や仕事において不注意・多動性・衝動性で「困っている」と感じている場合は、医療機関に相談することが重要です。ADHDの診断は、精神科や心療内科、メンタルクリニックなどの専門医療機関で受けることができます。
適切な診断を受けることで、自身の特性を客観的に理解し、効果的な治療やサポートを受けられるようになります。しかし、診断に至るまでには複数回の受診が必要で、時間がかかることも理解しておく必要があります。
受診先(精神科など)と診断までのプロセス
ADHDの診断や治療は、精神科、心療内科、メンタルクリニックで受けることができます。
診断では、受診に至った経緯や困りごとを確認し、ADHD症状が12歳になる前に見られたか、複数の場面で見られるか、症状がその他の精神疾患によるものではないかなどが診断のポイントになります。(※いずれも、アメリカ精神医学会におけるDSM-5の診断基準の場合)
専門家との詳しい面談(半構造化面接: CAADID)や注意力や記憶力などを客観的に評価する心理検査(WAIS-IVなど)の心理検査を行い、DSM-5の国際的な診断基準に基づいて総合的に判断されます。正確な診断のため、生育歴をしっかり確認した上で、通知表や連絡帳、母子手帳などの第三者からの情報提供も重要となります。
診断を受けることのメリットと注意点
ADHDの診断を受けることで、生きづらさの理由の一つがADHDを含めた神経発達症にあると理解すると「肩の荷が降りた」と感じる人もいます。自身の特性を客観的に把握し、適切な治療や対処法につなげることができます。
ただし、診断はあくまで特性を理解するための一歩であり、特性そのものを完全になくすことはできません。
診断結果を職場などに伝えるかどうかはご本人の判断ですが、伝えることでダブルチェックなど他者の力を借りた合理的配慮を受けやすくなる場合もあります。
大人のADHDの主な治療法とアプローチ
ADHDの治療の柱は、「薬物療法」と「心理社会的治療」の2つです。どちらが正しい、優れているというものではなく、この2つを組み合わせることで相乗作用を生み出すという視点が重要になります。
薬物療法では、アトモキセチンやメチルフェニデート徐放錠などを用いて症状の改善を図ります。一方、心理社会的治療では、さまざまな工夫や対処法を身につけることで、日常生活や職場での困難の緩和を目指します。治療は段階的に進められ、最終的には心理社会的治療のみでの自立を目標とする場合もあります。
症状の緩和を目指す薬物療法
薬物療法は、脳内の神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリンのバランスを調節し、不注意・多動性・衝動性の症状を緩和します。
成人のADHDの薬物療法では、一般的に用いられる薬として以下のものがあり、医師の判断によって処方されます。
- アトモキセチン
- メチルフェニデート徐放錠
- グアンファシン
なお、これらの薬は特性を根治するものではなく、あくまで補助的な治療です。効果の現れ方や副作用には個人差があるため、使用にあたっては医師との相談が不可欠です。
物事の捉え方や行動を整える心理社会的治療
心理社会的治療は、薬を使わずに物事の捉え方や行動の偏りを修正し、ストレスを減らして感情コントロールを促すアプローチです。
代表的なものとして「認知行動療法」に基づく治療があり、具体的にはソーシャルスキルトレーニング(ロールプレイを通じて対処法を学ぶ)やグループプログラム(日常の不注意・対人関係についてグループで話し合う)などが実施されます。
これらの治療を通じて、日常生活や社会生活での困難を軽減し、職場や家庭での適応力を高める効果が期待されています。
治療のゴール設定と進め方
ADHD治療の主な進め方としては、以下のステップがあります。
まず薬物療法を導入して特性の下支えを図り、次に心理社会的治療を並行して「うまくいった経験(成功体験)」を積み重ねます。十分に心理社会的治療を継続すると、工夫が習慣になって弱点が減り、自己肯定感の改善と二次障害の改善が見込めます。
最終的に生活の困難が減った段階で、薬を徐々に減らし、心理社会的治療に重きをおけるよう図ります。ただし、治療のゴールは人それぞれです。薬の継続や中止は個々の状態によって異なるため、医師と相談しながら個別に判断することが重要です。
治療と並行して実践したいADHD特性への対処法
ADHD特性は完全な治癒は望みにくいものの、薬物療法と行動・心理面の工夫を並行することで、仕事・生活での困難の緩和を図ることが期待されます。
成人のADHD治療では、治療の主体がご本人になるため、自分自身で取り組める具体的な対処法を身につけることが重要です。不注意に対する注意持続訓練やメモの活用、多動性・衝動性へのマインドフルネス、IT機器を活用した生活の工夫など、さまざまな方法があります。
以下で紹介する対処法に取り組むことで、特性による生きづらさを軽減し、日常生活の質を向上させる可能性があります。
自身の特性を理解し具体的な対策を立てる
まず自分の特性を知ることから始めましょう。苦手なことは何か、周囲から注意される点は何か、好きなこと・得意なことは何かといった自分の特性を把握することが、対策を立てる上での第一歩です。
苦手なことへの具体的な対策としては、たとえば以下が挙げられます。
- 忘れ物が多い → 必要なものは一ヶ所にまとめる
- 期日を守れない → スマートフォンのリマインダーを使う
- 書いたメモをなくす → 保存場所を一つに決めて持ち歩く
- ケアレスミスが多い → ダブルチェックを依頼する
対策を考えるときには複数の方法を試し、自分に合ったものを見つけることが大切です。
ツール活用や環境調整による工夫
スマートフォンなど、さまざまなIT機器を活用することで記憶や注意喚起をサポートできます。すぐなくす・忘れる場合はメモやリマインダーの活用、ケアレスミスが多い場合は読み上げるなどの確認対策、時間を守れない場合はアラームの活用といった方法が有効です。
環境調整では、デスクまわりの刺激を少なくして気が散らないようにすることや、一度に多くのことを行わず、スモールステップで実現可能な目標を設定することが効果的です。
医師や臨床心理士に相談しながら、自分に合った集中しやすい環境を整えることで、仕事・生活での難しさに対処していくことが大切です。
ストレスを軽減するためのセルフモニタリング
疲れやストレスに気付くには自分の心や身体の状態をじっくり観察する必要があります。ADHDの特性がある方はセルフモニタリング(自分自身の状態を観察すること)が苦手な方が多いとされ、ちょっとした気分や体調の変化に気づかずに頑張りすぎてしまい、結果として体調を崩してしまう傾向があるといわれています。
また衝動的に動いてしまいそうなときには「一歩立ち止まる」ことが、多動性・衝動性の影響を減らすために重要なスキルです。衝動性を抑えるためにも、自分の今の状態を感じ取る練習、すなわち「マインドフルネス」の練習が効果的とされています。
自分自身のストレスや体調の変化に気が付き、対処していくことが重要です。
ADHDの特性を理解し、専門機関と共に改善を目指す
大人のADHDは、適切な理解と対処により生活の質を向上させることが可能です。不注意や多動性・衝動性といった特性は完全になくなるものではありませんが、薬物療法と心理社会的治療を組み合わせることで症状を効果的に管理できます。
重要なのは、一人で悩みを抱え込まないことです。精神科や心療内科での適切な診断を受け、自身の特性を正しく理解することから始まります。その上で、日常生活でのツール活用や環境調整、セルフモニタリングなどの具体的な対処法を身につけることで、職場や家庭での困難を軽減できるでしょう。
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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医療上の判断を代替するものではありません。当社は医療機関ではないため、記事内容を基に自己判断で治療を開始・中止することは避け、必ず専門の医療機関にご相談ください。
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