医療リワークとは?プログラム内容や費用、他のリワークとの違いを解説
うつ病や適応障害などで休職した方が、再び安心して職場復帰を目指すための支援として注目されているのが「医療リワーク」です。医療機関が提供する専門的なプログラムで、治療と並行しながら再発予防や就労能力の回復を目指す点が特徴です。
本記事では、医療リワークの基本的な仕組みや他のリワークとの違い、プログラム内容や利用費用、対象者などを詳しく解説します。医療リワークの活用を検討している方や、復職支援の選択肢を知りたい方はぜひご参考ください。
治療の一環として行う「医療リワーク」とは?

医療リワークは、うつ病などの精神疾患で休職中の方を対象に、「精神科デイケア」などの枠組みで医療機関が治療として行う復職支援プログラムです。「return to work」を語源とし、単に職場に戻るだけでなく、再休職の予防を目標としています。
精神科デイケアなどの診療報酬の枠組みで実施される医学的リハビリテーションであり、医師や看護師、公認心理師・臨床心理士、精神保健福祉士、作業療法士など多職種の医療専門職が関わるのが一般的です。働き続けるための病状の回復と安定を目指した治療的アプローチが特徴です。
他のリワーク支援との違い

リワーク支援には、医療機関が実施する「医療リワーク」のほか、地域障害者職業センターによる職業リハビリテーションである「職リハリワーク」や、民間企業が運営する就労移行支援事業所や自立訓練(生活訓練)事業所による福祉サービス型リワーク支援である「福祉リワーク(民間リワーク)」などがあります。それぞれ運営主体や目的、支援を行うスタッフの専門性が異なるため、復職を目指す際には自分の状況やニーズに合った支援を選ぶことが大切です。
以下の表で、主な違いを確認しましょう。
| 比較項目 | 医療リワーク | 職リハリワーク | 福祉リワーク(民間リワーク) |
| 運営主体 | 病院やクリニックなどの医療機関 | 地域障害者職業センター | 民間企業が運営する就労移行支援事業所や自立訓練(生活訓練)事業所など |
| 主な目的 | 病状の回復と安定、再休職の予防(治療的要素が強い) | 職場への適応支援、本人・企業・主治医の調整 | 働くための能力・体力の回復、復職後の定着支援(訓練的要素が強い) |
| 支援の専門家 | 医師、看護師、公認心理師・臨床心理士、作業療法士などの医療専門職 | 職業カウンセラー | 公認心理師・臨床心理士や精神保健福祉士など多様な専門スタッフ |
| 費用 | 健康保険・自立支援医療制度が適用(自己負担1〜3割) | 無料(公務員は原則対象外) | 障害福祉サービスの制度を利用(前年の所得に応じた自己負担上限額あり) |
目的の違い
医療リワークの目的は、病状の回復と再発予防という治療的な要素が中心です。働き続けるための病状の安定を目指した医学的リハビリテーションとして実施されます。一方、職リハリワークや福祉リワークは、働くための能力や体力の回復といった訓練的な要素が強く、職場への適応支援が主な目的となります。
また、企業内のリワーク(職場リワーク)には、復職させて安定した就労ができるのかを見極めるという目的も含まれるケースがあります。
支援スタッフの違い
医療リワークでは、医師、看護師、公認心理師・臨床心理士、作業療法士、精神保健福祉士などの医療専門職がチームを組んで支援を行います。医学的な観点から病状を評価しながらプログラムを進めることが特徴です。
職リハリワークでは、職業カウンセラーが中心となり、休職者本人と企業、主治医の三者をコーディネートする役割を担います。福祉リワークでは、公認心理師・臨床心理士や精神保健福祉士に加え、キャリアコンサルタントなど多様な専門性を持つスタッフが在籍している場合があります。
医療リワークを利用する2つの大きなメリット
医療リワークのメリット” width=”650″ height=”433″ />
医療リワークには、他のリワーク支援にはない大きな強みが2つあります。1つ目は、医師や看護師などの医療専門職による医学的なサポートを受けられること。2つ目は、医療機関という立場を活かして企業側との円滑な連携が可能になることです。
これらのメリットにより、安心して復職準備を進められるだけでなく、復職後の職場定着にもつながりやすくなります。
専門家による医学的サポート
医療リワークでは、医師や看護師などの医療スタッフによる心理的なフォローを受けながら、専門的な心理療法や作業訓練に取り組めるため、効率的に復職準備を進めることが可能です。
休職中は自責感や焦り、不安などが生じやすいものですが、医療スタッフが状態を適切に評価し、心理的なケアを行うことで、利用者は安心してリハビリに集中できる環境が整います。認知行動療法や運動療法など心身両面からのアプローチで症状をしっかりと回復(寛解)させることが、再発率の低下につながります。
企業との円滑な連携
復職する本人だけでなく、受け入れる企業側も「どの程度回復しているのか」「どう接すればよいか」といった不安を抱えているケースが多くあります。
医療機関のスタッフが専門的な立場から企業側の疑問や不安を解消し、本人と企業のニーズを調整することで、無理のない復職環境を整える支援を行います。
必要に応じて、本人・企業・医療スタッフによる三者面談や、復職後のフォローアップ(※本人の同意を得た上での職場訪問など)が実施され、職場定着がサポートされる体制が整っています。
医療リワークのプログラム内容と復職までの3ステップ

医療リワークでは、利用開始から職場復帰までを段階的に進めるプログラムが組まれています。一般的なケースとして、第1段階では生活習慣の改善と基礎体力の回復、第2段階では休職に至った原因の振り返り、第3段階では新たなストレス対処法の習得を行います。
この3つのステップを着実に進めることで、再発リスクを抑えながら自信を持って職場復帰を目指すことが可能です。
Step1:働くための土台作り
第1段階の目的は、生活習慣の改善と基礎体力の回復です。療養中は働くリズムが崩れ、体力が低下したり、昼夜逆転しがちになったりするケースが多く見られます。
医療リワークでは決まった時間に施設へ通所することで、会社への通勤を想定した訓練を行い、生活リズムを整えることから始めます。運動療法やオフィスワークなどの軽い作業を通じて、療養中に低下した体力を徐々に取り戻していきます。
また、運動や栄養、体内時計など生活習慣を整えることがメンタルヘルスに良い影響を与えることが分かってきており、心と身体の健康に良いとされる知識を学びながら、より良い生活習慣を送れるよう改善を図る期間となります。
Step2:休職要因の振り返り
体力やリズムが整ってきた第2段階では、なぜ休職に至ったのか、その原因を探ることが目的となります。職場や家庭内でどのようなストレスイベントが生じていたのか、それに対して自分がどう考え、どのような対処方法を取ったのかを振り返る作業を行います。
この取り組みは、過去のつらい体験を振り返り、自身の苦手な事柄に向き合う作業のため、負荷が高いプログラムとなりますが、職場ストレスへの効果的な対処方法を見つけるためには欠かせません。自身の苦手な状況や、うまくいかなかった対処法を明確にすることが、再発防止策を考える上でとても重要となります。
Step3:新たな対処法の習得
最終段階では、自己分析で見えてきた課題に対し、新たなストレス対処法を学び、身に付けることが目的となります。
プログラムには以下のようなものがあります。
- SST(ソーシャルスキルトレーニング):対人関係やコミュニケーションスキルを向上させる訓練
- 認知行動療法に基づくプログラム:考え方のクセを整え、窮屈な働き方に陥らないようにする練習
- アサーショントレーニング:自己主張の方法を学び、適切に意見を伝えるスキルを習得する訓練
これまでとは違う対処法を身に付けることで、同じ状況を繰り返しにくくなり、自信を持って職場に戻る準備が整います。
医療リワークの対象者・期間・費用

医療リワークを検討する際、誰が利用できるのか、どれくらいの期間がかかるのか、費用はいくらなのかといった点が気になるところです。医療リワークは、一定の条件を満たした休職中の方が対象となり、利用期間や費用は個人の状況によって異なります。
ここでは、利用を検討する上で知っておきたい基本的な情報を整理します。
医療リワークを利用できる対象者
医療リワークの主な対象者は、うつ病や適応障害などの精神疾患が原因で休職中の方です。プログラムを開始するためには、以下の条件を満たすことが必要となります。
- 病状がある程度安定しており、安全に施設へ通所できること
- 本人に復職したいという意欲があること
- 主治医からプログラムへの参加許可を得ていること
十分な休養を取り、生活リズムが整い、治療が進んで不安や焦りが落ち着いている回復期が、プログラムを開始するひとつの目安とされています。また、休職者本人だけでなく、家族や職場関係者が参加できるプログラムを実施している施設もあります。
医療リワークの利用期間
医療リワークの利用期間は、個人の回復状況や休職期間によって様々であり、短いものは数週間から、長いものは年単位に及ぶケースもあります。一般的な目安として、平均3~7ヶ月程度で復職に至る方が多いようです。
プログラムでは段階的に通所日数や時間を増やしていき、最終的には週5日間安定して通所を続けられることなどが、復職準備が整ったかどうかを判断する目安となります。利用期間は個々の状態に合わせて柔軟に調整されるため、焦らず着実に進めることが大切です。
医療リワークにかかる費用
医療リワークは治療の一環であるため、各種健康保険が適用されます。さらに、精神科の通院医療費の自己負担額を軽減する「自立支援医療制度」が利用でき、適用されると自己負担が原則1割となります。
自立支援医療制度を利用した場合、1日あたりの費用は800円~900円程度が目安です。また、所得に応じた月額上限が設けられており、診察や処方薬、リワークを合わせて月5,000円~10,000円程度の負担となる方が多い傾向にあります。
多くの方が自立支援医療制度を利用しており、経済的負担を抑えながら利用できる仕組みが整っています。
民間の復職支援という選択肢|ニューロリワークのサポート
医療リワークが治療を主軸とした選択肢である一方、民間企業が運営する就労移行支援事業所や自立訓練(生活訓練)事業所などで行われる「福祉リワーク」も、多様なプログラムで復職をサポートする有効な手段です。
「ニューロリワーク」では、脳科学者や精神科医、公認心理師、臨床心理士などの監修のもと、独自の「ブレインフィットネスプログラム」を提供しています。運動、食事、睡眠、ストレスケア、知的刺激、人間関係の6領域をバランスよく整えることで、心と身体、頭(脳)の健康を目指します。
医療機関での治療と並行しながら、より実践的な職業スキルの回復や、一人ひとりの状態に合わせた支援を受けられる場として、見学や相談をご検討ください。
監修者
工藤 知紀
千葉くどう産業医事務所株式会社 代表取締役/産業医
札幌医科大学医学部卒業後、製鉄記念室蘭病院にて初期研修を修了。
豊田合成株式会社の専属産業医として従業員の健康管理・メンタルヘルス支援に従事したのち、独立して「千葉くどう産業医事務所株式会社」を設立。
現在は多業種の企業において20社以上の産業医を務め、労働衛生・メンタルヘルス・健康経営の各分野で幅広く活動。
法令遵守を踏まえた実践的な健康管理体制の構築や、安全衛生委員会・復職支援・ストレスチェック運用など、企業の現場に根ざした伴走型サポートを行っている。
■保有資格:
日本医師会認定産業医/産業保健法務主任者(メンタルヘルス法務主任者)/健康経営エキスパートアドバイザー/両立支援コーディネーター
ホームページ:https://kudo-sangyoui.com/
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