仕事を辞めたいけど次がない…不安なときの判断基準と次の一歩
仕事を辞めたいけれど次が決まっていないと、不安で一歩を踏み出せないものです。本記事では、退職すべきかどうかの判断基準や経済的リスク、公的支援制度、休養から社会復帰までの具体的な選択肢をわかりやすく解説します。焦らず自分に合った道を考えたい人に役立つ内容です。
「仕事を辞めたいけど次がない」と感じる心の背景

「仕事を辞めたい」と強く感じながらも、次の就職先が決まっていない不安から、身動きが取れずに悩んでいる方は少なくありません。このような気持ちが生まれる背景には、さまざまな要因があります。
「上司や同僚との関係がうまくいかない」「業務内容が自分に合わないと感じる」「正当な評価を得られない」といった職場環境への不満は、退職を考える代表的な理由です。
さらに注意が必要なのは、心身の不調が根底にある場合です。ストレスが蓄積し、精神的・身体的に疲弊している状態では、冷静な判断が難しくなり「今すぐ辞めたい」という思いが強まることがあります。まずは自分がなぜ辞めたいと感じているのか、その背景を整理することが大切です。
人間関係や業務内容への不満
職場の人間関係は、仕事を辞めたいと感じる大きな要因のひとつです。上司や先輩、同僚と合わない状況では、日々の業務そのものがストレスとなり、職場に行くこと自体が苦痛になっていきます。
業務内容への不満も深刻です。自分の能力を活かせない仕事や、興味を持てない業務を続けていると、達成感や充実感を得られず、仕事へのモチベーションが低下します。さらに、どれだけ努力しても正当に評価されない環境では、「頑張っても無駄だ」という無力感に陥りやすくなります。
こうした不満が積み重なると、冷静な判断力が失われ、「この環境から一刻も早く逃れたい」という気持ちが強まっていきます。
心身の不調が根底にある可能性
「仕事を辞めたい」という気持ちの背景に、心身の不調が隠れている場合があります。「夜に眠れない」「中途覚醒が増える」「朝起きられない」といった睡眠の問題や、「食欲がわかない」「何をしても楽しめない」「集中力が続かない」などの症状が現れている場合は注意が必要です。
これらは「怠慢」ではなく、うつ病や適応障害などのメンタル不調のサインである可能性があります。心身が疲弊している状態では、物事を前向きに考える余裕がなくなり、「次の仕事を探す気力もない」「将来が見えない」という不安が強まります。
このような症状が続く場合は、早めに医師に相談し、適切な治療を受けることが大切です。
次の仕事が決まっていなくても退職を検討することが望ましいといえるサイン

基本的には、次の就職先を決めてから退職するほうが経済的にも精神的にも安定します。しかし、状況によっては次が決まっていなくても、今すぐ退職を検討することが望ましいといえるケースがあります。
特に重視すべきは、自身の心身の安全です。仕事によるストレスで健康を著しく損なっている場合や、職場でハラスメントが横行している等で職場環境が悪化している場合は、そのまま働き続けることで取り返しのつかない事態を招く恐れがあります。また、会社の業績悪化や将来性への懸念がある場合も、早めの決断が必要です。
ここからは、次が決まっていなくても退職の検討が望ましい具体的なサインについて解説します。
精神的・身体的な健康を損なっている
仕事によるストレスで心身に深刻な不調が現れている場合は、次が決まっていなくても退職の検討が望ましいといえます。夜眠れない、食欲がない、憂鬱な気持ちが続く、何をしても楽しくないといった症状が続くときは、適応障害やうつ病のサインかもしれません。
特に「仕事に行こうとすると体調が悪くなる」「朝起きられない」など、体が拒否反応を示している場合は要注意です。これらは怠慢ではなく、心身が限界を迎えているサインです。
無理を続けて働くことで症状が悪化すると、将来的に働くこと自体が困難になる可能性があります。まずは心身の回復を最優先し、必要であれば早めに医師に相談しましょう。
ハラスメントが横行している
職場でセクハラ(セクシュアルハラスメント)やパワハラ(パワーハラスメント)、マタ・パタハラ(マタニティ・パタニティハラスメント)等のハラスメント行為を受けている場合は、次の仕事が決まっていなくても心身の状態によっては早急に退職を検討すべきです。暴力を振るわれる、暴言をはかれる、容姿や家庭環境など仕事に関係のないプライベートに言及される、見せしめのように大勢の前で叱責される、大声で怒鳴られるといった行為は自身の安全と尊厳を脅かすものです。
ハラスメントは自分ひとりで対処するのが難しく、精神的に追い詰められて行動を起こせなくなることもあります。自分を責める必要はありません。まずは自身の安全確保を最優先にしてください。
また、従業員規模等を問わず会社にはハラスメントに対して相談窓口を設置する義務もあります。また、ハラスメントについて相談したことをもって会社には従業員をやめさせたり、降格させたり、減給する等の不利益な取り扱いをすることも法律で禁止されています。退職を検討する前にこうした窓口に訴えてみることも状況の改善につながる可能性もあります。
なお、退職後でも法的措置を取ることは可能です。日時や内容を記録しておくなど、証拠を残しておくことが大切です。
会社の将来性に著しい懸念がある
会社の業績悪化や将来性への懸念がある場合も、早めの退職を検討すべきケースといえます。給与が減額された、希望退職者を募っている、ボーナスが大幅に減ったといった兆候は、経営が傾いているサインかもしれません。
公開されている財務報告書で継続的な赤字や債務超過が見られる場合は、将来的に倒産するリスクがあります。もし会社が倒産すれば、退職金やボーナスが支払われなくなる恐れもあります。
会社の将来性を見極めるには、財務報告書の確認や、業界トレンドの把握が有効です。主観的な判断だけでなく、上司などくわしい人の意見も参考にしましょう。
次の仕事が見つからないまま辞める前に知っておきたいこと

次の仕事が決まっていない状態で退職する場合、事前に把握しておくべき現実的なリスクがあります。収入が途絶えることによる経済的な負担や、経歴に空白期間が生まれることで転職活動が難航する可能性など、想定されるデメリットを理解しておくことが大切です。
ただし、こうしたリスクに対しては、傷病手当金や自立支援医療制度といった公的な支援制度を活用することで、ある程度の負担を軽減できます。退職前にこれらの情報を知り、計画的に準備を進めることで、退職後の生活への不安を和らげ、落ち着いて次のステップに進むことができます。
ここからは、退職前に知っておくべき具体的なポイントについて解説します。
退職後の経済的なリスク
次の仕事が決まる前に退職すると、収入が途絶えることで生活に困窮するリスクがあります。貯蓄が少ない状態で退職してしまうと、日々の生活への不安から精神的な余裕を失い、「就職できるならどこでもいい」と焦って転職先を妥協してしまう危険性があります。
雇用保険に加入していた方の場合、一定の要件を満たすことで失業保険(正式名称「基本手当」)の受給が可能です。失業保険は失業認定後に支給されますが、自己都合退職の場合は7日間の待機期間の後、原則として給付開始まで2ヶ月受給制限というものがあります。ただし、ハラスメントや医師の診断がある心身の不調などが理由で退職したとハローワークに認められた場合、「特定受給資格者」や「特定理由離職者」となり、この給付制限がなく、待期期間7日間が経過した後から受給できる場合があります。
そのため、退職前には最低でも半年程度の生活費を貯蓄しておくと安心です。経済的な余裕があれば、心にゆとりを持って転職活動に取り組むことができるためです。
経歴の空白期間(ブランク)が与える影響
次が決まる前に退職すると、経歴に空白期間が生まれます。この期間が長くなると、採用担当者から「仕事への意欲が低いのではないか」「就職活動をしていなかったのではないか」「仕事の勘が鈍っているのではないか」といった懸念を抱かれる可能性があります。
面接で空白期間について質問された際は、「治療に専念していました」「資格取得のための勉強をしていました」など、前向きな理由として説明できるようにしておくことが大切です。
そのためには、空白期間中にリワーク施設を利用して復職準備を進めたり、キャリアアップのための資格取得に取り組んだりすることで、ブランクを自己投資の期間として前向きに伝えることができます。
とはいえ、嘘を伝えて雇い入れられることは経歴詐称にあたり、採用が取り消される可能性もありますので事実と反するようなことを説明するのは避けましょう。
利用できる公的支援制度
病気等で退職した場合、退職後の経済的な不安を軽減するため、利用できる公的支援制度があります。代表的なものが「傷病手当金」と「自立支援医療制度(精神通院医療)」です。
| 制度名 | 対象者 | 支援内容 | 申請窓口 |
| 傷病手当金 | 業務外の病気やケガの療養のために働くことができない健康保険の被保険者 | 働けない期間中の生活を保障するために、給与の一部に相当する金額が支給される | 加入している健康保険組合(全国健康保険協会(協会けんぽ)の各支部など)。多くの場合、勤務先の人事担当部署を通じて申請手続きのサポートを受けられる |
| 自立支援医療制度(精神通院医療) | 精神疾患のため、通院による継続的な治療が必要な方 | 指定された医療機関や薬局でかかる医療費の自己負担額が、通常3割のところを1割に軽減される | お住まいの市区町村の担当窓口(障害福祉課、保健福祉課など) |
参考:全国健康保険協会(協会けんぽ)|病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)、厚生労働省|自立支援医療制度の概要、自立支援医療の患者負担の基本的な枠組み
傷病手当金は健康保険に加入していた方(①退職日までに被保険者期間が1年以上あることや②退職時点で傷病手当金を受けているか、または受ける条件を満たしているという要件があります。)が病気やケガで働けなくなった場合に支給され、最長で1年6ヶ月にわたり給与の約3分の2相当額が受け取れます。退職前にも傷病手当金を受け取っていた場合には1年6ヶ月からすでに受給した期間を差し引いた分が受給できます。
自立支援医療制度は精神科に通院する際の医療費自己負担を1割に軽減する制度で、継続的な治療が必要な方の経済的負担を和らげます。申請には主治医の意見書が必要です。
これらの制度を活用することで、経済的な不安を軽減し、治療や回復に専念できる環境を整えることができます。
社会復帰に向けて「次の一歩」を踏み出すための選択肢

「仕事を辞めたい」と感じたとき、選択肢は「辞める」か「続ける」かの二者択一ではありません。心身の状態や置かれている状況に応じて、社会復帰に向けたさまざまな道があります。
特に心身に不調を抱えている場合は、まず休養を取り、生活リズムを整えることから始めることが大切です。ある程度回復してきたら、自宅でできる「セルフリワーク」に取り組むことで、少しずつ社会復帰への準備を進めることができます。さらに、専門的なサポートが必要な場合は、リワーク施設を活用するという選択肢もあります。
ここからは、それぞれの選択肢について具体的に解説します。
まずは休養と生活リズムの再構築という選択
心身に不調を抱えている場合は、まず休養を取り、生活リズムを整えることが最優先です。休職直後は「早く良くならなければ」と焦る気持ちが生まれやすいですが、無理をすると症状が悪化する恐れがあります。まずは自分を責めず、十分な休息を取ることが大切です。
生活リズムを整えるには、毎日同じ時間に起床・就寝することから始めましょう。起床後に太陽の光を浴びることで体内時計がリセットされ、夜の眠気も自然に訪れやすくなります。栄養バランスの取れた食事を心がけ、無理のない範囲で散歩などの軽い運動を取り入れることも効果的です。
自身の生活を客観的に把握するため、睡眠覚醒リズム表などを活用して記録することもおすすめです。
自宅でできる「セルフリワーク」という選択
ある程度心身が回復してきたら、自分のペースで復職準備を進める「セルフリワーク」に取り組むという選択肢があります。リワーク施設に通う前段階として、自宅を中心に無理なく準備を進めることができます。
セリフリワークの具体的な取り組みとしては、以下の3つを段階的におこなうことがおすすめです。
- 図書館への定期的な通所:集中力や持続力を養う訓練
- 通勤練習:実際の通勤経路を使い、心身への負荷を確認する訓練
- 軽めの運動:ウォーキングなど無理のない範囲で体力を回復させる訓練
ただし、セルフリワークはあくまで無理のない範囲で進め、孤独感や不安が強まる場合は無理をせず専門家へ相談することが大切です。
関連記事:セルフリワークとは?復職に向けて具体的に何ができるのかを解説
専門家の支援を受ける「リワーク施設」という選択
セルフリワークだけでは限界を感じる場合は、専門的なサポートが受けられるリワーク施設の活用を検討しましょう。リワーク施設では、専門家の支援のもとで以下のような復職に向けたプログラムを受けられます。
- 生活リズムの改善:決まった時間に通所することで生活リズムを改善する
- 業務シミュレーション:実際の業務を想定した課題を通じて集中力や持久力を養う
- コミュニケーションスキルの向上:グループワークやディスカッションを通じてコミュニケーションスキルを向上させる
- ストレス対処法:認知行動療法などを取り入れたストレス対処法の習得
精神科医や公認心理師などの専門家が在籍している場合は、客観的なフィードバックを得ながら準備を進めることで、再発防止とスムーズな復職につながります。
関連記事:リワークとは|リワークの内容と利用のメリット・デメリットを徹底解説!
焦らず自分に合ったペースで次のステップへ
「仕事を辞めたいけど次がない」と悩むときこそ、まず自身の心身の状態を冷静に見つめ直すことが重要です。人間関係や業務内容への不満、心身の不調など、辞めたいと感じる背景には必ず理由があります。特に健康を損なっている場合やハラスメントを受けている場合は、次が決まっていなくても退職を検討すべきケースもあります。
一方で、経済的な不安や経歴のブランクへの懸念から焦って転職先を妥協してしまうと、再び同じ悩みを抱えることになりかねません。傷病手当金や自立支援医療制度といった公的支援を活用し、セルフリワークやリワーク施設などを通じて万全の状態で社会復帰を目指すことが、長期的に安定した働き方を実現する鍵となります。
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監修者
寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所
社会保険労務士
一橋大学商学部卒業後楽天株式会社に入社。国内・海外子会社の社内規程管理、内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。社労士事務所勤務を経て現在はスタートアップから上場企業まで幅広く労務顧問、労務コンプライアンス整備、海外進出労務体制構築等人事労務コンサルティングを行っている。
著書に「意外にしらない?!最新働き方のルールブック(アニモ出版)」等多数
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